第5話 お屋敷
翌日、僕はお嬢様にお屋敷の中を案内してもらった。
お嬢様は僕の手をずっと握っていてくれた。
『このお屋敷って……何人くらいの使用人の方がいらっしゃるんですか……?』
「そうね……あなたを入れて50人くらいかしらね。そんなにいないわよ」
僕としてはずいぶん多い気がするが、お嬢様の常識では違うのだろう。
基本的に家事などはメイドがやるので、僕はお嬢様の護衛や身の回りのことをするだけでいいそうだ。
だが、その前にまずは精霊と心を通わせ、魔力をコントロールしなきゃいけない。
「いいわ、その調子よ」
修行は昼夜を問わず、お嬢様の付きっ切りで行われた。
こんなことをしていていいのだろうか……?
「疲れたでしょう……? お風呂に入りましょうか」
「…………!?」
まさかとは思うが……お風呂までお嬢様と一緒なのだろうか!?
困惑している僕に、お嬢様は言った。
きっとお嬢様は僕の心の中はすべてお見通しなのだろう。
「もちろん、いっしょに決まってるでしょ? そのための専属執事さんなんだから。今は私が洗ってあげるから……。目が見えるようになったら、そのときは私のことを洗ってね?」
「…………!?」
僕は耳まで真っ赤になった。
赤という色をみたことはないけど……。
◇
お風呂から上がり、僕たちは寝間着に着替え、ベッドに横たわる。
なにもかもが新鮮で、このお屋敷での経験は僕を驚かせる。
お風呂は何百人もが入れるくらいの、大浴場だった。
それに、このベッドだって、何人でも寝れそうだ。
「いい? ユウォル。私はあなたに、すべてを与えるわ……。だから、あなたは最強の執事になって、私を絶対に守らなくてはいけません」
「…………!」
僕は強くうなずいた。
もちろん、僕はその気だ。
これだけ僕にいろいろしてくれたお嬢様を、なんとしてでも守りたい。
「そう……それなら大丈夫よ。あなたには……これから辛い思いをさせるでしょうけど……信じているわね……」
「…………?」
お嬢様にはなにか秘密があるのだろうか……?
どうしてそこまで、僕に念を押すんだ……?
何者かから命を狙われているとか?
シェスカお嬢様に限らず、上流階級の方々はみな、多かれ少なかれ、人からうらまれたりねたまれたりしているものだ。
他の貴族から命を狙われている人も多い。
だからこそ、大人になる前に一流の専属執事が護衛としてつく。
ならなおのこと、僕は早く一人前になって、お嬢様をお守りできるようにならなくては……!
『そういえば、お嬢様のご両親は……どこにいらっしゃるのです?』
僕は今日1日、お屋敷を案内されたけど、お嬢様と爺や以外に誰とも会っていない。
「そうね……そのこともおいおい話すわね……。私の両親は……殺されたのよ……。今話せるのはそれだけ……。もういいわ。今日は寝ましょう」
「…………!?」
僕は、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか?
お嬢様は、こんなに小さいのに、たった一人でこのお屋敷に……?
「あらユウォル。そんな顔はしないで……。私はなにも気にしないから……」
「…………」
お嬢様は僕の顔を撫でると、そのまま抱きしめてくれた。
まだまだ多くの謎はあるけれど……。
僕がお嬢様を大好きで、護るということだけは変わらない。
寝室の暗闇の中で、お嬢様のぬくもりを感じながら、僕は深く決意した。
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