第5話 お屋敷


 翌日、僕はお嬢様にお屋敷の中を案内してもらった。

 お嬢様は僕の手をずっと握っていてくれた。


『このお屋敷って……何人くらいの使用人の方がいらっしゃるんですか……?』

「そうね……あなたを入れて50人くらいかしらね。そんなにいないわよ」


 僕としてはずいぶん多い気がするが、お嬢様の常識では違うのだろう。

 基本的に家事などはメイドがやるので、僕はお嬢様の護衛や身の回りのことをするだけでいいそうだ。

 だが、その前にまずは精霊と心を通わせ、魔力をコントロールしなきゃいけない。


「いいわ、その調子よ」


 修行は昼夜を問わず、お嬢様の付きっ切りで行われた。

 こんなことをしていていいのだろうか……?


「疲れたでしょう……? お風呂に入りましょうか」

「…………!?」


 まさかとは思うが……お風呂までお嬢様と一緒なのだろうか!?

 困惑している僕に、お嬢様は言った。

 きっとお嬢様は僕の心の中はすべてお見通しなのだろう。


「もちろん、いっしょに決まってるでしょ? そのための専属執事さんなんだから。今は私が洗ってあげるから……。目が見えるようになったら、そのときは私のことを洗ってね?」

「…………!?」


 僕は耳まで真っ赤になった。

 赤という色をみたことはないけど……。





 お風呂から上がり、僕たちは寝間着に着替え、ベッドに横たわる。

 なにもかもが新鮮で、このお屋敷での経験は僕を驚かせる。

 お風呂は何百人もが入れるくらいの、大浴場だった。

 それに、このベッドだって、何人でも寝れそうだ。


「いい? ユウォル。私はあなたに、すべてを与えるわ……。だから、あなたは最強の執事になって、私を絶対に守らなくてはいけません」

「…………!」


 僕は強くうなずいた。

 もちろん、僕はその気だ。

 これだけ僕にいろいろしてくれたお嬢様を、なんとしてでも守りたい。


「そう……それなら大丈夫よ。あなたには……これから辛い思いをさせるでしょうけど……信じているわね……」

「…………?」


 お嬢様にはなにか秘密があるのだろうか……?

 どうしてそこまで、僕に念を押すんだ……?

 何者かから命を狙われているとか?


 シェスカお嬢様に限らず、上流階級の方々はみな、多かれ少なかれ、人からうらまれたりねたまれたりしているものだ。

 他の貴族から命を狙われている人も多い。

 だからこそ、大人になる前に一流の専属執事が護衛としてつく。

 ならなおのこと、僕は早く一人前になって、お嬢様をお守りできるようにならなくては……!


『そういえば、お嬢様のご両親は……どこにいらっしゃるのです?』


 僕は今日1日、お屋敷を案内されたけど、お嬢様と爺や以外に誰とも会っていない。


「そうね……そのこともおいおい話すわね……。私の両親は……殺されたのよ……。今話せるのはそれだけ……。もういいわ。今日は寝ましょう」

「…………!?」


 僕は、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか?

 お嬢様は、こんなに小さいのに、たった一人でこのお屋敷に……?


「あらユウォル。そんな顔はしないで……。私はなにも気にしないから……」

「…………」


 お嬢様は僕の顔を撫でると、そのまま抱きしめてくれた。

 まだまだ多くの謎はあるけれど……。

 僕がお嬢様を大好きで、護るということだけは変わらない。


 寝室の暗闇の中で、お嬢様のぬくもりを感じながら、僕は深く決意した。

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