第4話 魔法の才能


 お屋敷にやってきた僕は、まずお嬢様の部屋に通された。

 何度も長い廊下を通ったから、お屋敷はかなりの広さなはずだ。

 お嬢様はベッドに座り、僕もその横に座らせられる。

 外は既に夜となっていた。


「ユウォル、あなた目が見えるようになりたい……?」


 僕は『もちろん』と答えた。

 しかし、それは無理なことだった。

 幼いころからいろんな専門家に診てもらったが、なす術はないそうだ。

 だけど……お嬢様がそれを訊くということは……。


 お嬢様は口のきけない僕にも、魔法が使えることを教えてくれた。

 不可能だと思ってたことを、可能にしてくれたんだ。

 もしかして、僕の目も……開く、のか……?


「いいわユウォル。魔法の使い方は覚えているわよね? 精霊の存在を感じて、彼らに命じるの」

「…………」


 僕はうなずく。

 魔法を使えれば、目が開くとでもいうのだろうか?

 文字通りの魔法だな……と思った。

 いくら魔法でも、不可能なことはある。

 少なくとも、現代魔法においてはそうだ。


「いい? 私には魔力や精霊を感じる力があるの」


 僕はお嬢様の言葉に耳を集中させた。


「あなたの目が見えない理由。それはね、あなたの質の高すぎる魔力が原因よ」

「…………!?」


 ぼ、僕が質の高すぎる魔力を持っているだって!?

 そんなことを言われても、僕は魔力量だって兄弟で一番少ないとさえ言われていたんだ。

 信じられるわけがない。

 お嬢様は魔力の色だとか質だとか言うけど、そんな話は聞いたことがない。

 一般的に、魔力のことを言う場合はもっぱら量に関しての話題だ。

 魔法使いとしての能力も、魔力量で語られるといってもいい。


「信じられないという顔ね? いちから説明するわね。魔力には、質と量と色があるの。そのうち、質は魔法の威力や精密度に関係するわ。量は魔法を撃てる回数。色はその才能のバリエーションね」

『でも、魔力の量が多い魔法使いは、強力な魔法を放ちますよ……?」


「それは彼らがあまりにも魔法について無知だからよ。魔法の質を見分けられる人がいないからね」

『…………?』


 そりゃあまあ、僕だってお嬢様以外に魔法の質なんて言ってる人は聞いたことがない。

 きっと魔法大学の人にそんなことを言っても聞いてもらえないだろう。


「彼らは魔力の量しか感じ取ることができないせいで、量さえ多ければ強力な魔法が撃てると思っているの。でもそれは間違いだわ。ただ水の量を多くしたら勢いが増したというだけのもの。魔力の質が高ければ、もっと少ない魔力で効率よく魔法を行使できるの」

『そ、そうなんですか……』


「それで、話は戻るけど、あなたはその質が高すぎる。そのせいで魔力暴走を起こしている。それを制御すれば、目が見えるようになるはずよ……?」

『どうすればいいんでしょう……?』


「それは、明日から私が修行をつけてあげるわ。本当の魔法ってものを、あなたに教えます」

『お、お願いします……』


 なんだかシェスカお嬢様は魔法の先生みたいだ。

 彼女はいったい、何者なんだろうか……。

 どうやらただのお嬢様というわけじゃなさそうだ。


 でも……こんな話、僕じゃなかったら信じないぞ……?

 僕はとにかく、お嬢様の言う通りにやってみることにした。

 修行は明日から始めるそうで、今日はもう寝ることになった。


「じゃ、おやすみユウォル」

「…………!?」


「え、どうしたの……? そんな顔をして」

『僕は……どうすればいいんでしょう?』


 まだ僕の部屋を案内してもらっていない。

 それに、執事としての仕事などはやらなくてもいいのだろうか。


「ユウォルも、ここで寝るのよ?」

「…………!?!?!?!?」


「あたりまえじゃない、あなたは私の専属執事なのよ? いつも一緒にいないと。それに、家事もしばらくはやらなくていいわ。爺やがいるもの。あなたは今は、魔力の制御を頑張って」

「…………」


 そんなんでいいのだろうか……。

 でも、お嬢様がそう望んでくださるのなら、僕はそれに従うだけだ。

 お嬢様のベッドはすごく高級で、広々としていて、ふわふわで……いい匂いがして……。

 とにかく最高の寝心地だった。


「大丈夫よユウォル。私がついているもの。私があなたを一流の執事にしてあげる」

「…………!?」


 お嬢様は寝ている僕に後ろから抱きしめてきて、手を握ってくれた。

 そしてそのまま、眠りに落ちていく僕。

 今日はいろんなことがあって疲れてしまった。

 初めて魔法を使ったこともそうだし、感情を激しく使い過ぎた。

 でも、お嬢様の優しいぬくもりのおかげで、安心して眠ることが出来たのだった。

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