第50話 片方の玉

 ボスの前に現れた謎の魔法少女。彼女は自身の事を魔法少女を生み出した張本人と言い、ボスは彼女と不思議な時間を過ごしていた。




 そんな2人の後ろで揺らめく影があった。その影は、朧げな口調でボス〜。と口をもごもごと動かしている。




 2人は驚いて後ろをバッと振り返る。するとそこには寝ぼけて辺りをふらつく部下の姿が。




 寝ている部下は何やらしきりに匂いを嗅ぎ分けるている。そして、ボスの方に照準を合わせると勢いよく飛び込んだ。




 何もわからず反射で避けるボス。オリジナルは思わず拍手をした。




「常人なら、どんな刺激を食らっても起きれないくらい深い眠りに落としたつもりなんだけどな。」




 彼女は本当に君が好きなんだね。と言いながら感心するオリジナル。




 一方、ボスの布団に突っ込んだ部下はひとしきりその匂いを嗅いだ後、またすくっと立ち上がり本物のボスを求める。




 ボスとオリジナルは、注意深く部下の動きを観察する。すると、視界の隅で部下以外の何かが動いた気がした。




 ボスは、恐る恐るその何かに視線を向ける。その何かは部下ちゃ〜ん。と言いながらふらふらと歩いている。




 それは間違いなく女主人であった。考慮すべき動きが2つに増え、ボスはさらに慎重に2つの影の様子を窺う。




「まさか2人も動くなんて、君たちは本当にすごいな!」




 目を爛々と輝かせるオリジナル。その間もボスはじっと息を潜め、集中力を保つ。




 一瞬だけ、ボスは部下と目があった気がした。まずい。と思い、その視線をすぐさまずらすボス。




 部下は少しだけフリーズする。




「見ぃーつけた。」




 部下から声がしたと思うと、既にその位置から部下は消えていた。




 まずいと思ったボスはすぐさま視点を部下に合わせようとするが既に遅く。先手を取った部下にあっという間に組み敷かれてしまった。




 倒れた衝撃と痛みで涙目になるボス。いってー、と言いながら部下の方を見ると部下もその衝撃で少しだけ目を覚したのか、辺りを見回している。




「あれ?ここはどこですかぁ?」




 部下は誰ともなく問いかけ、ふと目に入ったボスを見て、にへらと笑う。




「あれぇ?ボスがいるなぁ。でも、私はさっきまで布団で寝ていたはずなのに、どうしてボスがいるんですかぁ?」




 ボスは口元を抑え、静かに首を横に振る。うーんと考え込む部下。そして、熟考の結果、部下は結論に辿り着く。




「そうか!これは夢なんだ!」




 寝ぼけ眼の部下は、高らかに宣言した。ボスにとって、この結論は最悪な物だった。彼には部下がこれから起こす行動が手にとるようにわかる。




 えへへへへ、と笑いボスを舐め回すように見る部下。




「夢なら何してもいいよね。」




 一瞬だけ真顔になった後、また綻ぶ部下。ボスは、神様に祈るしかなかった。




「ボスぅ〜。私ね、ずっと欲しかったものがあるんですよ〜。」




 部下が、ボスの体を撫でながらボスに話しかける。




「わかった!なんでもやる!なんでもやるから!とりあえず離せ!」




「なんでもくれるんですか!?嬉しいなぁ!」




 ボスの説得も虚しく、部下にズボンを剥ぎ取られるボス。ボスの下半身が露わになる。




 もはや、きゃー。と力なく叫ぶことしかできないボス。その間も、部下はじっとボスの局部を見つめる。




「私ね、ずっと思ってたんです。ボスってずるいなぁって。」




 唐突な始まりに、頭がついていかないボス。尚も部下は話を続ける。




「ボスって2つも持ってるじゃないですか。」




 部下の言葉が、ボスの脳神経を渡る。部下が見つめているのはボスの局部、そして局部に2つあるもの。導き出した答えは皮肉にも1つしかなかった。




「おい!それはダメだ!!」




 ボスは必死に抵抗しようとするが、部下にマウントポジションを取られている。




「私は、ボスの生涯の伴侶なんですから!1つは私がもらってもいいですよね!」




 部下は月明かりに照らされたボスの右の玉に手を伸ばす。そして、ボスは自身の右の玉を、むんずと握られた感触を感じた。




 容赦なく引っ張る部下。あまりの衝撃に耐えながら、なんとか部下の手を掴む。




「離してください!ボス!これは、私の物ですよ!」




 絶叫する部下に、いや!俺のだよ!と絶叫で返すボス。




 そんな混沌とした状況の中で、女主人の影がふわりと近寄る。




 部下ちゃ〜ん、と言いながらボスの頭を抱え込んだ女主人。




「部下ちゃん!呼ばれてるよ!!」




 ボスの叫びはただ闇の中に消え、部下はボスの玉を取ろうと引っ張り、女主人はボスの頭を抱え込み続ける。




 そんな状況を見て、一瞬思考が止まったような表情を浮かべて、その後静かに微笑んだオリジナル。




「あの子は妙な人を好きになったものだね。」




 彼女が放った言葉は、ボスを取り巻く混沌の喧騒に消えてしまった。

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