第49話 オリジナル
寝室で眠るボス、部下、女主人。そんな中現れた謎の女にボスは口元を押さえつけられていた。
助けを呼ぶ声は、押さえつけられた手にかき消される。ボスの隣ですやすやと眠る部下と女主人。
ボスはなんとか手を振り回し、目の前の女を自分からどかそうとする。大きく振った左手が女に当たる。
しかし、その殴打は何かに弾かれる。ボスにはとても既視感があった。
女は特に慌てる様子もなく、ボスの耳元で囁く。
「ちょっと黙りなさい。」
ボスは大人しく従う。まだ油断はできないが、特に敵意があるわけではなさそうだ。
それに、こんな夜中に寝室に忍び込んできて、自分が対処しきれない相手だ。きっとまともな人間じゃない。
ボスが静かになったのを確認して、女はボスの口元から手を離す。
「こんな手荒な真似しちゃってごめんなさいね。」
月に照らされたその女の髪は、トパーズのように輝く。
「貴方は一体誰なんですか?」
ボスはあくまでも小さな声でその女に尋ねた。女は少しだけ考えた後、口を開く。
「私はね、魔法少女を生み出した張本人よ。」
その女は微笑みを浮かべ、オリジナルとでも呼んでちょうだい。とボスにささやく。
やっとボスは先程の既視感に納得がいった。相手が魔法少女であれば、ボスも気付くことはできないだろうし、部下達が即座に寝てしまったのも理解できる。
しかし、相手が魔法少女であるのならば、自分は今、絶対絶命の状態にあるのではないかとボスは焦り出す。
その心を読んだかのように、オリジナルはボスの頬に手をやる。
「安心していいのよ。私は、別に貴方をどうにかしようなんて思っちゃいないわ。」
その手には、不思議な温もりがあった。そして、その温もりと同時にどこか懐かしさがあった。
「昔、僕に触れたことがありますか?」
気がつくとボスはオリジナルに尋ねていた。オリジナルは寂しそうに笑い、えぇ。と答えた。
ボスは、はっとした表情を浮かべる。彼は幼馴染の人質と出会った事もある。
それだけに、忘れ去ってしまった昔の記憶があるのではないかと必死に思い出そうとする。
しかし、何も思い出す事ができない。
「貴方は一体、何者なんですか?」
ボスは、ごくりと唾を飲み込んだ。魔法少女は、目を伏せて少しだけ首を振ると、ボスに向き直った。
「私は、電車内で貴方の右の尻を触っていた者よ。」
お前か!!!ボスは叫んだ。どうりでその手の温もりを懐かしく感じたわけだ!とボスは激しく合点がいく。
「なんか楽しそうだったから、つい。」
頭に手をやりながら、照れたように笑うオリジナル。ボスは、とりあえず布団の上に座る。
「それで、オリジナルが私に何の用です?」
ボスは、眠そうに目を擦りながら尋ねる。
「特に用はないのよ。ただ、あの子達が全然勝てないって言ってたから、どんな人間なのか気になっちゃって。」
オリジナルは、月を見つめている。しばらくの間、訪れる沈黙。
初めはオリジナルの方を向いていたボスだったが、その沈黙の中、ボスも月を見つめ始めた。
ボスの後ろで、影が揺らめいた。
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