第41話 怖いよ~
光の魔法少女は、ボスを自分の体にしっかりと固定し、部下から決死の逃走を試みる。
急な魔法少女の動きに虚を突かれた部下。しかし、次の瞬間には冷静になる。階下に消えた光の魔法少女を凄まじい速さで追いかけ、すぐにその姿を捉える。
「お前ごときにボスは渡さない。」
光の魔法少女は、背後からおびただしい量の殺意を感じながら、必死で廊下を駆け抜ける。ドリフト、壁ジャンプ、ありとあらゆる技を使い部下からの逃走しようとする。
しかし、部下もそれに負けず劣らず光の魔法少女を視界に捉え続ける。
光の魔法少女は懸命に走り続けた。ボスを部下から守るため、そして....。彼女は自分がなぜこんなにも懸命に走っているのかわからなくなってしまった。
自分は魔法少女、そして彼は悪の組織の長だ。決して結ばれる事もなく、ボスは私の事などついには気にかけなくなり、最後には悪党である事を引退して、私と会う事すら無くなるのかもしれない。
そんな事を思い、彼女は足を止めそうになってしまった。それでも、魔法少女の足は動く。頭の中で彼女は弱々しく笑った。
もはや、自分の体を理性でコントロールする事もでき無くなってしまったのか。あの子が言っていたように私はただの家畜同然じゃないか。
そんな風に心の闇が膨れ上がる。光の魔法少女の中で何かが灯ったような感覚があった。闇の感情に包まれながらも必死に走る魔法少女。
ようやく、外に繋がる扉までたどり着いた光の魔法少女。ここから、幼児退行したボスを連れ去って私だけの物にしても良いのではないか。
結ばれる事も叶わないのなら、いっそ未来永劫誰にも見つからない場所にボスを隠してしまっても....。
そんな可能性を光の魔法少女が考えた瞬間、彼女の視界の端を宇宙人が掠めた。第三者が目に入った瞬間、光の魔法少女は冷静になる。
気づけば、何故自分は四足歩行で敵のボスを連れ去ろうとしているんだと少し恥ずかしい気持ちにさえなっていた。
対する宇宙人は、窓から落ちてくる一様に気絶した黒服達を超能力を使い安全に着地させる作業の後の一服中であった。
突如、自分の目の前に現れたボスを背負った四足歩行の光の魔法少女に、宇宙人は興奮を抑えきれなかった。
何か素晴らしい事が起こるに違いないと、宇宙人は光の魔法少女の方に目を凝らしながら、持っていたリンゴジュースをごくりと飲んだ。
そして、次の瞬間には殺意を抑えきれない様子の部下がドアを開け、魔法少女めがけて突入してくる。
光の魔法少女は逃げる。そして、それを部下が追う。屋外という自由なスペースで、その逃走はさらに激化していった。
人間が曲がれるはずのない次元を曲がり、なんとか逃走を図ろうとする光の魔法少女、それを絶対に逃さない部下。
この世ならざる光景に宇宙人は、ただただ笑うしかなかった。
その内、魔法少女と部下の動きが急にピタリと止まった。それは何故か?宇宙人は全神経を尖らせて魔法少女と部下を見た。
理由は簡単にわかった。
ボスが泣いていたのだ。
「怖いよ〜。」
叫びながら泣き喚くボス。
それを見て、一切に争いをやめた魔法少女と部下。魔法少女はボスを地面に下ろす。尚も泣き止まないボス。
部下はごめんねぇ。ごめんねぇ。と言いながらボスの頭を撫でる。光の魔法少女は魔法で温かい光を出し、ボスに当て続ける。それでも泣き止まないボス。
それを見ていた宇宙人は、我慢の限界だった。大声で笑い転げる宇宙人。ひとしきり笑った後、宇宙人は再度、ボス達の方を見る。
すると3人はもう一度、お馬さんごっこを行っているのであった。そして、今度こそ彼らは仲良く光の魔法少女は馬として、部下はボスの支えとして、そしてボスは笑顔で馬に乗っていた。
宇宙人の中で何かが決壊した。彼女は柔らかな表情を浮かべていた。もはや笑いを通り越し、彼女の中には神聖な気持ちが溢れていた。
そして、宇宙人はふと空を見上げる。そこに広がるのは生憎の曇り空。彼女は雲が邪魔だなと思った。
超能力を使って、円形に雲を取り除いていく、ボスを中心として光が差し込むように。
宇宙人は、その円の真ん中を指差して、静かに目を閉じた。
宇宙人は、何かを祈っていた。
そして、その数分後、アイズが到着する。
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