第40話 お馬さんごっこ

幼児退行したボスを部下から隔離するため、お馬さんごっこという手段を選んだ赤の魔法少女。




 ボスを背中に乗せ、彼女の必死の逃走劇が始まろうとしていた。






「いけいけー!」




 無邪気にはしゃぎながら、ボスは足をばたつかせる。




 バスンバスンと、成人男性の足が脇腹に衝撃を与える。




 魔法で脇腹を固めながら、赤の魔法少女は少しずつ前進していく。




「お散歩楽しいね〜。」




 部下は、ボスが落ちないよう支えながら、散歩を楽しむ。




 彼女の目に赤の魔法少女は映っておらず、部下にとって、ボスが乗っているのは正真正銘ただの家畜であった。




「ねぇねぇ、ボスくん。この馬ちょっと遅くないかしら?」




 部下はニヤリと笑って、赤の魔法少女を見る。赤の魔法少女は冷や汗が止まらない。




「たしかに、ちょっと遅いかもしれないね。」




 純粋な笑顔を部下に見せるボス。部下もつられて優しい笑みをこぼす。




「それじゃあ、馬が速く動けるように教えてあげないとね。」




 言うが早いが、部下は目にも止まらぬ早さで赤の魔法少女の尻を目掛け、シンプルな蹴りを放つ。




 ひぃぃぃぃという赤の魔法少女のか細い絶叫と共に部下の足は、赤の魔法少女の尻に着弾する。




 その寸前に、なんとか魔法で衝撃を防ぐ。手足の震えが止まらない赤の魔法少女。




「ぶるぶるしてて楽し〜。」




 無邪気にはしゃぐボス。そんなボスを見て部下はこの家畜をもっと震えさせたいと思った。




「それじゃあ、もっとぶるぶるさせるよ〜。」




 部下の宣言と共に、音を置き去りにした蹴りが赤の魔法少女の尻を正確に貫こうとする。




 なんとか衝撃こそなかったものの、魔法で作成した障壁には穴が空いていた。




「ちょっと....。あんたねぇ、一体どんだけの力持ってんのよ....。」




 赤の魔法少女が涙目で部下を見る。部下は、赤の魔法少女の耳に口をそっと近づけ、喋るな家畜と一言だけ呟いた。




 ひぃぃぃぃとか細い叫び声があった後、赤の魔法少女は一言も喋る事ができなかった。




 部下とボスと赤の魔法少女は、しばらく緩やかに続いた。しかし、そんな彼女達の前に現れたのが階段であった。




 階段を前にして、様々な恐ろしい想像がよぎる赤の魔法少女。恐る恐る部下の顔を見る。




「どうした?足が止まってるぞ?」




 部下は、この世界の純粋な絶望を宿した表情で赤の魔法少女を見る。




 自分にはもう打つ手がない。少しだけ出てきた涙を振り払って、目の前の階段を睨む。




 四足歩行をしながら拝む階段は、普段とは違いその危険性をより一層強調している。




 そして、後ろにはこの空間全てを支配している部下がいる。彼女は危険な道を進むしかなかった。




 しかし、階段を進んだところで部下の蹴りが飛んできたら、運が悪ければ確実にあの世行きだろう。




 赤の魔法少女は、一歩めの勇気がでず、俯いてしまった。




 その時、優しく大きな手が彼女の頭を撫でる。




「お馬さん、頑張って!」




 ボスは、赤の魔法少女の頭を撫でながら、悪の組織の長らしからぬ純粋な笑顔を浮かべている。




 そうだ。私は、この笑顔を守りたかったんだ。赤の魔法少女は素直な自分の気持ちを再認識する。




 次の瞬間、赤の魔法少女は光の魔法少女に変身していた。




 急旋回して、部下の方に向き直る光の魔法少女。その動きはさっきまでとは次元が違った。




「この子は私の物だ。」




 そう言って光の魔法少女は、ボスを光のシートベルトで自分に固定すると、大きく跳躍した。

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