第29話 バカップル。
立花さんが俺のことを好きと言った。そして付き合いたいと。隣にいる茜さんは俺をジッと見つめている。
幻聴ではない。確かに俺のことを好きと言った。立花さんは司が好きではなかったのか? それに俺は嫌われていたはずだ。
コレはドッキリ? いやいや、立花さん姉妹がそんな事をしても何の徳もない。
もしや夢を見ているのか? いやいや、そんな事はない。夢と勘違いする阿呆が何処にいる。
混乱するな。冷静になれ。無理だ。頭がクラクラする。そんな事よりも立花さんは頭を下げたままだ。俺が行動しないと、この先は何も始まらない。
「立花さん。頭を上げて」
立花さんは頭を上げた。不安そうな顔をしている。おそらく夕飯の準備中に俺への告白を姉妹で話し合ったのだろう。
そして茜さんは俺が立花さんを好きという事を伝えていない。勝ち確なら立花さんが不安になる事はない。
「えっと、聞きたいことが沢山あるけど、その前に返事をするね」
「はい」
やばい、頭がクラクラする。心臓がキュッと締め付けられる。
言葉を発する瞬間、司の顔が頭をよぎる。すまん。一ヵ月前の俺ならこの言葉は絶対に言わなかっただろう。
「俺も立花さんの事が好きです。俺で良ければ喜んで付き合います。よろしくお願いします」
言い終えると俺は頭を下げた。そして頭を上げると嬉しそうにしている立花さんがいた。目にはうっすらと涙を溜めている。
「良かったね沙織」
「うんうん、嬉しい」
コクコクと頷きながら答える立花さん。目に溜まっている涙を拭っている。
「あのさ、司に電話しても良いかな?」
「うん。そうだね。やっぱり橋野君は優しい人だね」
いや、俺は優しくない。幼馴染の微笑ましい関係をぶち壊したのだから。だけどどうしても譲れなかった。
俺はポケットからスマホを取り出し司に電話をかけた。
『もしもし』
「司、いま電話大丈夫?」
『少しなら大丈夫だよ』
「もしかして他に誰かいるの?」
司の後ろから微かにだけど複数の話し声が聞こえた。
『うん。レストランで知り合い達と懇親会中だよ。何か急用かな?』
懇親会とは流石お金持ち。俺のプライベートに懇親会というイベントはない。
「あのさ、司には悪いけど、俺、立花さんと付き合う事になったから」
『えっ! ホントに⁉︎ 付き合うって、二人は恋人になったって事?』
司は驚いている。いきなりの報告だから無理もないか。
「ホントだよ。いま立花さんの家にいるけど、ついさっき付き合う事になった」
『……そっか。おめでと。いきなりで驚いたけど、僕も嬉しいよ』
「あのさ……ごめんな」
『あははっ、真一は優しいね。謝らなくていいよ。二人が幸せなら僕は嬉しいからね。明日学校で詳しく教えてね』
「分かった。明日な。急な電話でごめんな」
『あはは。真一は謝ってばかりだね。ありがと。沙織に代わって貰えるかな』
俺は司が話をしたいと立花さんに伝え、スマホを渡した。
「……うん。私からだよ。……うん。ありがと」
立花さんは通話を切りスマホを俺に渡した。司は優しい。アイツが立花さんの幼馴染で良かったと心底思った。
「ひと段落したわね。しーちゃん、そろそろ帰りましょうか。話は車の中でも出来るからね」
「はい。そうですね」
俺達は戸締りをして家を出た。敷地内の駐車場に止めてある茜さんの車に乗り込む。そして俺の家へと向かった。
◇◆◇
運転は茜さん。俺と立花さんは後部座席に座っている。
「立花さん、質問してもいい?」
「うん。いいよ」
立花さんの声が弾んでいる。俺に向けた笑顔が可愛い。隣にいる絶世の美少女が俺の彼女なんだよな。
いろいろと聞きたい事はある。不快にならない程度に聞いていこう。
「えっと、どうして今日告白したの? 俺が来るって知らなかったみたいだし。急な告白だよね?」
「それは……お姉ちゃんから今日の二人の行動を聞いて告白しようと決めたんです」
「どう言うこと?」
「橋野君はお姉ちゃんとのデートで、恋人つなぎしたり、膝枕したり、頭なでなでしたりしましたよね?」
「はい。ごめんなさい。もうしません」
「え〜、もうしてくれないの〜。お姉ちゃんは寂しいよ〜」
「もう、お姉ちゃんは黙って」
「は〜い」
立花さんは怒っていない。笑顔だ。幸せいっぱいって感じだ。
「橋野君は今後もお姉ちゃんには膝枕はしてもいいです。特別ですよ。他の子には絶対にダメですからね」
「はい」
「では話を戻しますね。宇座川唯さんとは連絡取っていますか?」
「いや、一回もしてない」
「でも今後連絡を取り合う可能性はありましたよね? 橋野君は優しいしカッコいいから、いつか告白されると思います。お姉ちゃんみたいに急接近されて。その時に橋野君は宇座川唯さんと付き合うと思います」
「そんなことないと思うよ」
「可能性はゼロじゃないですよね。もしかすると唯さん以外の女の子のかもしれません。そうなると私は告白してもフラれます。いえ、告白すら出来ません。だから告白しました」
なるほど〜。そう言うことなのね。
納得していると立花さんは手を俺に差し出した。顔を見ると少し恥ずかしそうにしている。コレは手をつないで欲しいアピールだろう。
俺は差し出された手を握った。つないだ手を立花さんは恋人つなぎにした。
「橋野君、いつか私にも膝枕して下さいね。デートもですよ」
「デートはもちろんするけど、膝枕は俺を苗字ではなく名前で呼んで、さらに敬語を使うのやめたらしてあげる。耳かきをセットにしてね」
俺はニコッと微笑む。立花さんは戸惑っている。どうやら悩んでるようだ。
「わ、分かりました。すぅぅ……ふ〜」
深呼吸をする立花さん。
「真一君、今度、膝枕してね。楽しみにしてるね」
うぉぉぉ! 胸にズキューンって、きちゃぁぁ! 良き良き良き! 敬語は立花さんと距離を感じていたけど、タメ口だと親密度がゼロ距離と言っていい! 最高です!
「真一君も私のこと名前で呼んでね。お願い」
立花さんからの微笑み返し。かわいい! 可愛すぎる。
「分かった。沙織ちゃん」
「もう一回、名前呼んで」
「沙織ちゃん」
「もう一回」
「沙織ちゃん」
「『大好き』をつけてもう一回」
「大好きだよ、沙織ちゃん」
運転中の茜さんが『バカップル爆誕ね』と呟き笑った。
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