第25話 立花茜さんはフレンドリー。
十一時になった……やっぱり冗談だったんだな。
俺は今、公園のベンチに座ってスマホで時間を確認している。昨日、立花さんの姉の茜さんからデートの約束を一方的にされた。
冗談だと思ったけど、本気で言った可能性も捨てきれなかった俺はノコノコと約束の公園へ来た。
場所は合っている。連絡先を交換していれば良かったと少し後悔している。
スマホの画面を見ながら俺はこの後どうしようかと考える。
う〜ん……帰るか。
そう、おうちに帰ろう。いやぁ、今日は楽しいお出かけだったなぁ。
立ち上がろうとした時、突然目の前が真っ暗になった。
「だ〜れだ?」
俺は後ろにいる人物から両手で目隠しをされた。しかも犯人は自分が誰なのか当ててほしいらしい。
「立花さんのお姉さん」
と、俺は答えた。声で分かる。余裕だ。だけど、フレンドリー過ぎないか? 昨日知り合ったばかりですけど?
「はい。正解。でも、名前を言ってほしかったな」
そう言って立花さんのお姉さんの茜さんは目隠しをやめて俺の隣に座った。
茜さんは俺と目を合わせ微笑んだ。この人はやべぇ、無茶苦茶美人だ。
茜さんは昨日と雰囲気が違う。どうしてだろう? あ、化粧をしてる。すごく魅力的だ。心臓がドキドキする。
と言うか、人違いだったらどうしていたんだろう?
「こんにちは。ちゃんと来てくれたのね。嬉しいよ」
「冗談と思ったけど、一応来ました」
俺の言葉を聞いて頬を膨らませる茜さん。
「むぅ。私は冗談は言いませんっ。ぷんぷん」
俺は『プッ』と吹き出した。茜さんは容姿と性格が噛み合ってない。見た目は大人だけど中身は少女だ。
茜さんの子供っぽい可愛さに俺の緊張が和らいだ。
「茜さんは何歳ですか。『ぷんぷん』って子供すぎませんか?」
「ひどっ。子供じゃないですぅ。二十五歳の素敵なお姉さんですぅ」
「はいはい。そうですね。茜さんは素敵なお姉さんです」
二十五歳ということは俺と九つ離れているのか。
「あはっ。イケメン男子高校生に褒められた。嬉しい。今日はお姉さんがなんでも奢っちゃうよ」
いやいやいや、俺はイケメン男子高校生じゃないですよ。でも、言われて嫌な気持ちはしないけどさっ。それにしてもなんでも奢るって、茜さんってチョロすぎませんか?
「お昼ご飯食べに行こっか。もちろん私の奢りで。ね、真一君」
まだお昼ご飯は早い気もするけど、お腹空いてるのかな? って、ん?
「あれ? 俺、自分の名前教えてないですよね?」
「真一君のことは沙織に聞いたの」
「え? 俺のこと聞いたんですか?」
「うん。リレーの時に転んだ子いたけど誰? ってね」
げっ。マジか。もしかしてあの事も言ったのか?
「大丈夫だよ。沙織には真一君が泣いていたって言ってないから安心して」
「いや、泣いてないし。と言うか、リレーは見ていたんですか?」
俺の顔色で気づいたのか、心を読まれてしまった。
「見てないよ。転んだことを戻った時に近くの人達が言っていたのを聞いただけ。ド派手に転んだみたいね」
ぐはっ。あの時の恥ずかしさが蘇る。数ヶ月のブランクであんな事になるとは思ってなかった。
「続きはご飯食べながら話そっ」
茜さんは立ち上がり俺に手を差し出す。差し出された手を掴んでいいものか一瞬悩んだけど、俺は手を握って立ち上がった。
「ありがとうございます」
「じゃあ行こっか。私、車で来たから駐車場まで行こっ」
「あの、茜さん、手」
俺は茜さんの手を掴んだ。その手を茜さんは離してくれない。
「このままでいいじゃない。今日はデートなんだしね」
そう言って手を繋いだまま歩き出す茜さん。公園に人はそこそこいる。大胆すぎるよ。大人の女性ってすごいね。
「えっと、茜さんは彼氏いないんですか?」
「いないよ〜。三年前に後輩に取られてから現在までいませんよ〜」
「あ……なんか……ごめんなさい」
謝った俺を見てニコッと微笑む茜さん。
「真一君は優しいね。大丈夫だよ。当時は辛かったけど、今はなんとも思ってないしね。まぁ、吹っ切れるまで二年かかったけどね」
二年か……すっごく好きだったんだな。っていうか、茜さんのような美人と別れるとか信じられないんですけど。
「真一君は彼女いるの?」
「いや、いません」
「過去にはいたの?」
「中三の時いましたよ。付き合って三ヶ月でフラれましたけどね。俺といてもつまんないって言われて。落ち込みましたけど今は吹っ切れてます」
「そうなのね。私と同じ理由でフラれたんだ」
ニコニコ笑顔の茜さん。上機嫌だ。フラれた理由が同じでそんなに嬉しいのだろうか?
そして俺と茜さんは手を繋いだまま公園の駐車場へ行き茜さんのお高そうな車に乗った。仕事は何してるんだろ?
「真一君、車の中でも手は繋ぐ?」
運転席にいる茜さんが俺に聞いた。
「それって運転中にって事ですよね? 危ないからダメです」
「真面目だ〜。あ、もしかして照れてるのかな? かわいいなぁ」
楽しそうに話をする茜さん。仲良くする距離がめちゃくちゃ近くない? 別にいいけど。
そして俺と茜さんの乗った車は駐車場を出て公園を離れた。もちろん車の中では手は繋いでいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます