第24話 立花沙織視点。

「ふぁぁ〜。——痛っ」


 体育祭の次の日。予想通り私は全身筋肉痛になっていた。


 目覚まし時計を見ると午前十時四十分。今日は祝日。予定のない私はのんびりと寝ていた。


 トイレに行きたくなったので、住んでいる一戸建ての二階の自分の部屋から一階に行く。お姉ちゃんが玄関にいた。


「お姉ちゃんおはよ。何処か出かけるの?」


 お姉ちゃんが珍しくスカートを履いてお洒落をしている。私が声をかけるとお姉ちゃんはこちらを向き、嬉しそうに微笑む。


「沙織おはよ。お姉ちゃんはこれからデートなの」


「そうなの⁉︎ 彼氏出来たの⁉︎」


「彼氏じゃないよ。う〜ん、そうだなぁ、友達かな?」


「でも、彼氏になる人なんでしょ?」


「そうね。未来の彼氏になるのかな」


「そうなんだぁ。私もその人に会ってみたいな」


「分かった。沙織に会わせたいから頑張って連れてくるね。待ち合わせに遅れそうだからもう行くね」


「は〜い。いってらしゃ〜い」


 楽しそうに話すお姉ちゃんを見て、私は嬉しくなった。お父さんとお母さんに報告しなきゃ。


 お姉ちゃんを見送った私は仏壇のある部屋に移動した。


 ◇◆◇


 仏壇の前に座り、りんをチーンと鳴らして手を合わせる。


 お父さん、お母さん、嬉しい報告です。お姉ちゃんに彼氏が出来そうです。知ってた?


 三年前、お姉ちゃんは高校生の頃から付き合っていた彼氏にフラれた。


 そしてもう恋はしないと毎日ヤケ酒していた。お父さんは毎回お姉ちゃんに付き合っていた。


 そして二年前、父の運転していた車に対向車の居眠り運転大型トラックが正面衝突した。助手席に母も乗っていた。


 その交通事故で両親は死んだ。映画を見に行く途中だった。私と姉は家でお留守番をしていた。


 そして私の高校受験。お姉ちゃんは家族の為に忙しく動いてくれた。その間お姉ちゃんに彼氏はいない。


 私が高校生になってから少しゆとりができたので、お姉ちゃんに彼氏を作らなのって聞いた事がある。『今は忙しいからいらないかな』と言われた。


 その時お姉ちゃんは少し寂しそうな顔していた。まだ元カレを忘れられないんだと私は思った。


 でも今日、お姉ちゃんは嬉しそうにデートをすると言った。相手の男性はきっと素敵な人だよね。


 だってお姉ちゃんにお洒落をさせて笑顔にしてくれたもん。絶対にいい人だよ。


 お姉ちゃんが幸せそうだから、私もお父さんとお母さんに報告しようかな。実は私も好きな人が出来ました。えへへ。


 司じゃないよ。お父さんごめんね。私が好きになった人はクラスメイトの橋野真一君です。


 お父さんは沙織の彼氏は司なら許すと言っていた。親バカだね。


 お母さんは沙織が好きになった人なら誰でも良いと言っていた。


 私が誰でも良いの? と聞いたら、沙織が好きになるのなら絶対に素敵な人だから大丈夫と言っていた。


 そしてお母さんは『好きな人が出来たらその人が沙織の運命の人だよ』と言っていた。母親の勘らしい。そうだと嬉しいね。


 お父さん、お母さんに言ってなかったけど、橋野真一君はあの人だよ。高校入試の時に困っている私を助けてくれた人。私の王子様。


 でね、最近橋野君と仲良くなってると思うんだ。何回か会って緊張もしなくなったしね。


 デートの約束もしたよ。日程はまだ決まってないけどね。


 約束をしたあの日、部屋で電話をかけようか悩んでいて画面をジッと見ていたら、いつの間にか私の後ろにいたお姉ちゃんにスマホの画面を見られて橋野君の事を聞かれた。


 しどろもどろになっていた私をお姉ちゃんが追求して私は橋野君を好きと白状した。


 お姉ちゃんも応援するって言ってくれた。顔を見たいって言ったから、司から貰った橋野君の画像を見せた。


 すっごいイケメンと言っていた。私もそう思う。友達も橋野君はカッコいいと言っている。


 最近、親しい友達に私が橋野君を好きだとバレている。司じゃない事にビックリしていたけど、好きになった理由を言ったらみんな納得していた。


 お父さん、お母さん、私とお姉ちゃんの恋を見守っていてね。お父さんは邪魔しちゃダメだよ。

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