第18話 策がある。

「ちょっと司! どうして私と橋野君が連絡先を交換するって話になるの!」


 立花さんは顔を赤くして司に詰め寄る。ふむふむ、思いっきり拒絶されてるね。


「だってさ、真一は僕と唯さんの連絡先を知っているでしょ? で、沙織のは知らない。それって仲間外れだよね。大好きな沙織だけ仲間外れなのはダメだよ」


「そんな理由で⁉︎ バッカじゃないの! 橋野君に迷惑でしょ!」


 ほうほう、俺を利用して遠回しに交換したくないって言ってますな。


 だが、しか〜し。俺は利用されるだけの男の子ではない!


「俺は迷惑じゃないよ」


「えっ」


 立花さんが俺を見た。予想外の発言に驚いているみたいだ。はい、俺の勝ち〜。


「真一は迷惑じゃないって。ほらほら交換交換」


 こちらをチラチラ見る立花さん。俺はニコッと爽やかスマイル。


「つ、司がそこまで言うなら交換しても良いけど……橋野君は本当に良いのですか?」


「いいよ」


 そして俺と立花さんは連絡先を交換した。立花さんの手が終始震えていたけど、もしかして怒っていた? まっずいぞ。好感度急降下だ。


 でも……ふふふ。今日だけで美少女二人の連絡先が手に入るとはね。これは友人に自慢できるな。うっひゃひゃ……冗談です。ごめんなさい。


 交換してから立花さんは自分のスマホ画面をジッと見ている。そんなに嫌だったのかな?


 俺の視線に気づいて、立花さんはスマホ画面から視線を外した。彼女の顔が赤くなっている。


「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってきます」


 そう言って立ち上がり、トイレのある方へ立花さんは行った。


 司と二人きりになったので、俺は司に質問しようと思う。


「なぁ司。何故あんな事言ったんだ?」


「あんな事? ああ、だって好きな人の連絡先欲しいでしょ?」


「あのなぁ、俺は立花さんに恋愛の好きという感情はないんだけど」


「あはは。もう隠さなくてもいいのに。僕と真一の仲じゃない」


「俺とおまえは赤裸々に何でも話せる仲じゃないと思うぞ」


「真一は恥ずかしがり屋さんだね〜」


「別に恥ずかしがり屋ではないし」


「あはは。沙織の連絡先ゲットできて嬉しいって顔に書いてあるよ〜」


 司のやつメッチャからかってくるな。嬉しいか嬉しくないかで言えば、すごく嬉しいに決まっている。


 だけど、立花さんとは電話もメッセージのやり取りも絶対にないだろうね。


「でもさ、真一って沙織にすっごく嫌われてるね」


 ——ぐはっ! 司、おまえってチョイチョイぶっ込んでくるよな。心が痛いんですけど!


「……まぁ、それは仕方ない事だから。俺は知り合った全ての人と仲良くなれるとは思ってないしね」


「でも沙織とは仲良くなりたいんでしょ? 好きな人だしね」


 ぐぬっ。立花さんとは仲良くなりたいに決まっているじゃないか! でもどうする? 司に言っていいのか?


「僕はね、大好きな二人には仲良くなってもらいたいんだ」


 仲良くね。可能性はゼロと思うけど万が一、いや億が一、立花さんが俺の事好きになったらどうする? 困るのは司だろ? いやそんな事は絶対に無いけどさっ。


「あのさ、俺が立花さんと仲良くなると、司にはマイナスな事にならないか?」


「それは大丈夫。何事もフェアにいかないとね。その上で僕が勝つからね。だから問題なしだよ」


 司……おまえカッケーよ。俺はおまえに絶対に勝てないよ。


「でね、真一と沙織を仲良くする策が僕にはあるんだよ」


「気持ちはありがたいけど、それは自分でなんとかするよ」


「でも、なんとか出来てないでしょ?」


「うぐっ。そうだけど……」


「まぁいいからいいから。僕は二人が仲良しになるキッカケを与えるだけだから。そこからは真一の頑張り次第だからね」


 司。おまえってホントにいい奴だよな。クラス一の人気者なのも納得がいくよ。


 それにしても司の言う仲良くなる策ってなんだ? 皆目検討もつかないんだけど。


 司との会話がひと段落した頃に立花さんが戻ってきた。


「沙織おかえり」


「うるさい」


 立花さんはまだ怒っているようだ。これ以上刺激しても大丈夫なのか?


 俺の心配をよそに、司は自分のボディバックを開け、チケットらしき物を二枚取り出した。


「真一、今日はありがとね。コレはお礼だよ」


「何? お礼?」


「うん。あそこのハンバーガー屋さんの三件隣にケーキ屋さんがあるよね? そこのケーキバンキングのチケットだよ。コレあげるよ」


 司はケーキ屋さんを指差している。


「二枚あるから沙織と二人で今度の土曜日に行ってね」


 ……はい? 立花さんと二人で? ……なな、なんですとぉぉぉ!


 おそらくコレが司の策だと思うけど、流石に無理だろ!


 司の隣に座っている立花さんを見ると、顔を真っ赤にしている。


「ね、沙織も行っておいで」


「無理無理無理無理! 絶対に無理! 橋野君と二人でケーキ屋さんに行くのは絶対に無理! 司、無茶言わないで!」


 予想通り立花さんに思いっきり拒絶された。俺ってメッチャ嫌われてるね。


 普通ならヘコむけど……何故だろう、逆に燃えてきた。


 はっはっは! 絶対に立花さんとケーキバイキングに行ってやるぅぅ。

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