第19話 一緒に行こう。
さて、俺とケーキバイキングに行くのを絶賛拒絶中の立花さんと六日後の土曜日に一緒に行くには、どう説得するのが正解なのか……。
何かヒントが無いのか司が手に持っているチケットを観察する。ふむふむなるほど。
「司、そのチケット、今度の土曜日が期限みたいだな」
「そだよ。期限切れたら勿体ないでしょ? だから真一と沙織の二人で行ってほしいんだよね」
「私じゃなくても司と橋野君の二人で行けば良いじゃない。馬鹿」
確かに。でも男二人でケーキ屋に行くのは……。
司と目を合わせる。ニコッと笑顔になりうんうんと頷いた。
「沙織、男子二人で行くのは恥ずかしいと思わない? それに僕は甘い物苦手なんだよね」
「それでも二人で行って」
立花さんはどうしても俺と行きたくないようだ。くっそ〜。負けないぞ。
「俺は立花さんと二人で行きたいな」
「えっ⁉︎」
こんな時は遠回しにせずにハッキリと言った方が良いと思う。だから俺はズバッと言ってみた。
「あの……その……橋野君が……どうしても私と行きたいのなら……」
立花さんは困惑している。モジモジしている姿がとても可愛い。
よしよし良い感じだ。自論だけど自分を嫌っている人と仲良くなるには、こちらから心を開くしかない。とは言っても成功の確率はかなり低いけどね。
うんうん。今回は効果ありみたいだね。
「……やっぱりダメ……瑠華ちゃんと行って下さい……」
——ぐはっ! そうきたか! そんなに俺が嫌いなの⁉︎ でも、ボク負けない!
「ごめん。瑠華はその日、友達と図書館に行って勉強するって言ってたよ」
「そうですか……」
瑠華は受験生。休みの日も勉強をしている。努力家だ。
「分かりました……行きます」
立花さんは遂に行くことを許諾した。
——おっしゃぁぁぁ! 勝ったどー!
ベンチに座っていた立花さんはスッと立ち上がった。
「帰ります」
そう言って立花さんはその場を離れる。
「僕も一緒に帰るよ〜」
振り返り司を見る立花さん。
「一人で帰れ。ゴミが」
……ヤッベ、立花さん凄く怒ってるよ。
俺をチラッと見て立花さんは帰って行く。怒りで顔が赤くなっていた。
「司、大丈夫なのか?」
「どうしたの?」
「立花さんメッチャ怒ってない?」
「あははっ、大丈夫。沙織は全然怒ってないよ」
誰がどうみても怒っているように見えるけど、いつも一緒にいる幼馴染にしか分からない事もあるんだろうな。
「司、ありがとうな。立花さんと仲良くなるチャンスくれて」
「……真一は鈍感だね」
「鈍感? 何の事だ?」
「さぁね。じゃあ僕達も帰ろっか」
「そうだな。司、また明日な」
俺は司からチケットを渡されソレを受け取る。そして別れた。
司はすぐに走って行った。おそらく立花さんを追いかけるのだろう……アイツ、明日は絶対筋肉痛になるな。
二人と別れて気づいた。完全に忘れていた事がある。それは、立花さんと待ち合わせの場所と時間を決めていなかった。
明日学校で立花さんに話しかけてみるか。
◇◆◇
次の日、予想通り司は全身筋肉痛になっていた。あれだけ全力で走ったら、そりゃなるだろう。
俺は少し安心した。司も普通の人間なんだと思った。平然としていたら規格外の完璧なヤツなので、俺は心の距離を作っていたかもしれない。
立花さんは俺に対してはいつもと変わらなかった。話しかける事ができない。う〜ん。距離がなかなか縮まない。
このままでは二人でケーキ屋に行く事ができない。どうする?
……よし、決めた。今夜立花さんに電話しよう。
◇◆◇
学校は問題なく普通に終わった。ここ最近、司が良く話しかけてくる様になった。悪い気分はしない。
時刻は二十時十分。晩御飯と風呂などを済ませて後は寝るだけ。
俺はベッドに座ってスマホの画面を見ている。立花さんのアドレスが表示されている。
昨日は立花さんに電話をする事はないと思っていたけど、早速使う事になるとはね。
交換してから立花さんからはメッセージや電話はない。当たり前か。
もう一人連絡先を交換した人物がいる。唯ちゃんだ。彼女からも電話やメッセージはない。有言実行だ。
さて、立花さんに電話をするか。ポチッとな。
俺は少し緊張しながら通話ボタンを押した。
◇◆◇
次回、立花沙織視点。
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