第8話 立花さん来訪。

 ……ふぁぁぁ……今……何時……八時……。


 日曜日の朝。まったりと目が覚めた。


 目覚めて少し時間が経つとトイレに行きたくなった。


 一戸建ての二階の自分の部屋から、俺はあくびをしながら一階に降りた。


 ◇◆◇


 トイレで全て出し終え、スッキリしてからリビングに行くと妹の瑠華がいた。


 いつもの日曜日なら瑠華は昼頃に起きてくる。服装もパジャマではなく普段着だ。


「あ、お兄ちゃん、おはよ」


「おはよ。瑠華が早起きなんて珍しいな」


「えへへ。すごいでしょ。パパとママが温泉に安心して行けるように、瑠華、頑張ったんだよ」


 ああ、そう言えば昨日言ってたな。確か、帰るのは夜だったな。


「お兄ちゃん、ねぐせ凄いね〜」


「今日は休みだし問題なし」


 ——ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴る。こんな朝早く誰だろ?


「お兄ちゃんお願い」


 妹は自分のスマホを操作しながら、俺に玄関に行くように頼んでいる。


 瑠華は珍しく早起きして頑張ったし、出てやるか。


 俺は妹のいるリビングから玄関へ移動した。


 ◇◆◇


「はーい。今開けまーす」


 玄関の外にいるであろう人物に声をかける。そして扉を開けた。


「た、た、立花さん⁉︎」


 玄関の外にいたのは立花沙織さん。予想外すぎて頭が軽くパニックになる。


「はい。立花です。おはようございます」


 立花さんはお辞儀をした。そして俺に微笑んだ。


 ——こ、これは夢か⁉︎ 立花さんの可愛い笑顔が俺に向けられるなんて。


「沙織さん、おはよ〜」


「瑠華ちゃん、おはよ」


 俺の隣にひょこり現れる妹の瑠華。


 ……あ、なるほど。俺でなく、瑠華に微笑んだのか……うん。今は夢の世界じゃないみたいだね。


「ところで……どうして立花さんがいるの?」


「お兄ちゃん忘れたの? このまえ立花さんに勉強教えてもらう約束したでしょ?」


 ……あ、そう言えば瑠華の誕生日にそんな約束してたな。


「瑠華。どうして昨日立花さんが来るの教えてくれなかったの?」


「お兄ちゃんへのサプライ〜ズ。どお、驚いた?」


 そう言ってニヤニヤしだす瑠華。


 サプライズ? 立花さんが来て俺が喜ぶと思ったのか?


 確かに驚きはしたけど、嬉しい……のか、俺?


 妹にそっけない態度でもいいけど、それだと立花さんが不快になるかもしれない。ここは……


「うわ〜驚いた。びっくりしたよ〜」


 少し大袈裟に驚く。俺の態度が不満なのか頬を膨らませる瑠華。


「ところでお兄ちゃん、ねぐせが凄いよ。だらしないなぁ。お兄ちゃんは休みになると、い〜っつもお昼まで寝てるしね。今日は珍しく早起きだけどね」


 どうやら妹はご立腹のようだ。俺に恥をかかせようとしている。しかーし!


「瑠華、それはおまえだろ? 毎週昼まで寝てるのは」


 と、反撃してみる。


「ひ、ひどい……お兄ちゃん、沙織さんにカッコよく見せたいからって、妹を利用するなんて……シクシク」


「な、なに言ってるんだ⁉︎ べ、別にかっこよく見せたいと思ってないぞ。真実を言っているだけだぞ!」


 俺達を見ていた立花さんがクスクスと笑った。


「橋野君と瑠華ちゃんはすごく仲がいいんですね」


「はい! 瑠華たちは愛し合ってます!」


「ちょ、バッカやろう! そんなわけないだろ!」


「お兄ちゃん、なに本気にしてるの? 冗談も通じないの? お兄ちゃんってホント馬鹿だよね。ばーか、ばーか」


 立花さんをチラッと見ると、またクスクスと笑い出した。そして瑠華は満足気だ。勝ち誇った顔をしている。


「沙織さん、瑠華の部屋に行こ〜」


「はい。お邪魔します」


 俺を玄関に残して立花さんと瑠華は二階へ行った。


 ◇◆◇


 ……えっと、なんか俺だけ損してない? 立花さん呆れてるよね……。


 玄関にポツンと一人。ちょっぴり悲しい。


 ……る、る、瑠華のばかぁぁぁ。絶対に挽回してやるぅぅぅ!

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