第9話 普通の男子高校生。

 立花さんと瑠華が二階に行った後、俺は一人で朝食を済また。


 そしてねぐせなどの身だしなみを整えて自分の部屋に戻った。


 部屋に戻りパジャマから普段着に着替えてベッドに寝転がり、目を閉じて考え事をする。


 ◇◆◇


 さて、立花沙織攻略作戦会議を始めようかな。


 ……う〜ん、どうやって挽回しようかな?


 立花さんは今、廊下を挟んで正面の瑠華の部屋にいるよね?


 そこに突撃は……もちろんしない。勉強中だから迷惑になる。


 と言うか、普段から瑠華の部屋には入らない。


 妹も年頃の女の子、兄の俺に部屋には入られたくないだろうと思い、瑠華が中学生になってからは一度も入ったことはない。


 ちなみに瑠華から『部屋に入らないで』と言われた事は一度もない。


 う〜ん。一つ屋根の下にいても接点がなければ、挽回しようもないなぁ。


 例えば二人にお茶とお菓子を持って行く……は、駄目だな。集中を途切れさせてしまう。


 なら、二人に昼飯を作るか……は、立花さんが午前中しかいない可能性がある。


 俺が作ると言って、立花さんが気をつかって食べて帰るとなると、挽回するどころか逆に不快感を与えてしまう。


 さてさて、どうすればいい? どうすれば……


 ◇◆◇


「……ちゃん……お兄ちゃん。起きて〜」


「……ん……瑠華……」


 妹の瑠華の声が聞こえる。どうやら考え中にうっかり寝てしまったようだ。


 目を擦りながらゆっくりと目を開ける。視界がぼやけている。


「あ、起きた〜。お昼ごはん作ったから一緒に食べよ〜」


「ん、ああ、ありがとう……立花さんは……?」


「隣にいるよ〜」


 俺はむくりと起き上がる。確かに立花さんがいる。


「沙織さんとパスタ作ったんだよ〜。早く行こ〜」


「立花さんと? 立花さん、ありがと」


「えっ? あ、いえ……」


 立花さんは部屋の壁を見ていた。俺の言葉への反応が一瞬遅れた。


「……お兄ちゃん、あのブイチューバーのポスター外した方がいいと思うよ」


 妹が壁に指をさす。そこには俺の推しのポスターが飾ってある。


 立花さんは先程そのポスターを見ていた。


「ファンだからべつにいいだろ」


「瑠華は理解あるからいいけど、普通の女の子が見たら気持ち悪いと思うよ?」


 普通の女の子……はっ! 立花さんのことか!


「沙織さんはどう思いますか。二次元のポスターを部屋に貼るオタクな男の子のこと」


「あのアニメのポスター?」


「うん。そだよ」


「趣味は人それぞれだから、いいと思うよ」


 うお! 立花さん理解力あるぅ。


「気持ち悪くないですか?」


「えっと……その前にブイチューバーってなにかな?」


 な、なんですと! 立花さんご存知でない!


「立花さん、ブイチューバーってのは、アニメのキャラクター、つまりアバターを使って動画配信、投稿を行うユーチューバーのことです」


「私、そういうの見ないから疎くて……ありがとうございます。えっと、気持ち悪いかどうかですよね……」


 立花さんは答えづらそうにしている。俺をチラチラ見ている。


「うんうん。はっきり言ってください」


 瑠華は楽しそうだ。目が輝いている。


「気持ち悪くはないかな」


 と、立花さんは答えた。


「ホントにホントですか〜」


「うん。ホントだよ」


「ふむふむなるほど。お兄ちゃんよかったね」


「瑠華、ひとつ訂正していいか? 俺はオタクではない」


「お兄ちゃんはオタクだと思うよ。沙織さんもお兄ちゃんはオタクだと思いますよね?」


「う……うん」


 ぐはっ! まじか! 立花さん、それは誤解だ!


「いやいやいや、俺は普通の男子高校生です。ポスターくらい誰でも飾ります」


 俺の友達の大多数も飾ってるって言ってるし、普通の行為だよ。


「誰でもじゃないと思うよ。お兄ちゃん認めようよ。自分がオタクだと」


「ちがーう。オタクは奥が深いんだよ。俺は上部の薄っぺらいところにいるんだよ。だから違う。俺がオタクだと言うのはオタクに失礼だ」


「お兄ちゃんが認めたくないのは分かる。それが原因で唯ちゃんにフラれたからね」


「……唯ちゃんにフラれた原因は別にある」


「あの……唯ちゃんって誰ですか?」


 立花さんが俺たちに尋ねる。


「お兄ちゃんの中学の頃のカノジョです」


 瑠華が立花さんに答えた。


「あ〜、瑠華。パスタは出来たてが美味しいよな? 食べに行こう」


 話を膨らませたくなかった俺は、強引に昼ごはんの話題にすり替えた。


「そうだった〜。忘れてた〜」


 俺はベッドから飛び降り、瑠華の肩を押して部屋の扉の方へ行く。


 そして昼ごはんが準備してある一階のリビングへ向かった。


 ◇◆◇


「ご馳走様でした。おいしかった」


 昼ごはんはとてもおいしかった。立花さんは午後からも勉強を教えるとのこと。


「後片付けは俺がするから、二人は部屋に戻っていいよ」


 俺がそう言うと二人も手伝うと言った。だけど一人で大丈夫と伝える。


 そして立花さんと瑠華は二階に行った。


 さてと、後片付けがんばりますか。

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