第7話 恋のライバル。
放課後の教室。
俺は自分の席に座っている。
神谷司は隣の席に座っている。
教室には他に誰もいない。
◇◆◇
神谷司は立花さんと毎日一緒に帰っている。
「今日は橋野と話をするから先に帰っていいよ」
と、神谷司が立花さんに言うと、
「そんな事をいちいち私に言う必要ある?」
と、ため息混じりの呆れ顔で言って、さっさと教室を出て行った。
◇◆◇
「神谷君、話ってなに?」
俺は神谷司に尋ねた。話がなんなのか予想もつかない。
「僕ね、沙織の事が好きなんだ」
うん。知ってる。クラス全員知ってますよ。
「で?」
「だから僕達、恋のライバルだね。橋野には負けないから」
「はい?」
「あっ、でも選ぶのは沙織だから、どっちが選ばれても恨みっこなしだよ」
ん? ん? ん? はい? 神谷司君、キミ、ちょっと何言ってるのか意味が分からないですけど?
「あの〜神谷君。キミの話だと俺が立花さんを好きって聞こえるんだけど、気のせいかな?」
「橋野は沙織のこと好きだよね」
「いや、ぜんぜん。好きじゃない」
「そうだよね。好きだけど言えないよね。言うのは恥ずかしいから」
「だから違うって」
「うんうん。橋野も普通の人間でよかった」
……ダメだコイツ、人の話をまったく聞かない。なんだよ恋のライバルって。
それに、立花さんを好きな男は全員が神谷司の恋のライバルになるのか?
「なぁ、他にも立花さんを好きってヤツはいると思うけど、そいつらにも今みたいに恋のライバル宣言してるのか?」
「いや、してないよ。橋野だけだよ」
「は? 俺だけ? なんで?」
「それはね、沙織が橋野の事を特別な存在として見ているからだよ」
俺が立花さんの特別な存在? 嫌われているのは特別な存在とは思うけど……。
「なぁ、神谷君。説明してくれなか? 特別な存在って何?」
「沙織は橋野の事を……嫌いだと思うんだよ。嫌われている。それが特別な存在なんだよね」
——ぐはっ! 同級生にはっきり言われると心が痛いのですが! おまえに慈悲の心は無いのか!
「まぁ、うん。それは分かってる。立花さんが俺を嫌っているのは……」
「あはは。そんなに悲しまなくていいと思うよ。嫌いなら好きになる可能性があるって事でしょ。ライバルになるには十分な理由でしょ?」
好きになるねぇ……その可能性は低いと思いますよ。だってイケメン幼馴染がいますから。
神谷司、おまえは理解してるのか? 幼馴染補正は最強なんだぜ。只のクラスメイトとは格が違うんだ。
「橋野だけなんだよ、嫌われているのは。他の男子には無関心なのにさ。不思議なんだよね」
……なんかムカついてきた。『嫌われている』を連呼するなよ。
「じゃあ、俺と神谷君は敵って事だよね?」
「いや、違うよ。恋と友情は別腹だからね。むしろすっごく仲良くなろうよ。同じ女の子を好きなんだからさ」
いやいや、俺は立花さんを好きじゃないのですが? ただ仲良くなりたいだけなのですが?
あ〜、イライラする。ちょっと発散するか。
「あのさ、『恋と友情は別腹』の別腹って、使い方間違ってないか? 知らんけど」
はい、間違い指摘しましたー。たぶん使い方間違ってまーす。
「あ、ごめーん。沙織から貰った誕生日プレゼントの手作りクッキーの余韻がまだ残ってたよ〜」
「は? なにそれ?」
「超美味しかったよ〜。沙織から初めて手作り貰ったんだ〜」
はいはい、自慢したいのね。ご馳走様です。ははっ、幸せそうな顔してるなぁ。
神谷司の整った顔が少し崩れて、幸せそうにしている姿を見ていると、俺の不快な気持ちが和らいでいく。
「神谷君、帰りたいから話はもう終わっていいよな?」
「うん。もう満足だよ」
「まぁ、その、俺を恋のライバルと思うのは勝手にしていいから。俺は思わないけど」
「橋野は照れ屋だなぁ」
「はいはい。そうですね」
幸せな神谷司にいちいち反論したりイライラしたりするのが馬鹿らしく思えてきた。
「あと、僕は今後、橋野の事は
「はいはい。分かりました。神谷君」
「『神谷君』じゃなくて『司』だよ。『つかさ』」
「へいへい。司。了解しました〜」
「じゃあ、帰ろっか。いや〜、良き時間が過ごせたよ〜」
それは良かったね。
◇◆◇
満足気の神谷司と途中まで一緒に帰った。その間、立花さんのどこが好きなのか延々と聞かされた。
一応、司に確認したら二人はホントに付き合っていなかった。
途中、『立花さんに告白した事ある?』と神谷司に聞いてみたら、
「もちろん。初めての告白は幼稚園児の頃で、それから百回はした。全部断られてるけどね」
と、神谷司は笑いながら言った。
改めて思う。司はメンタルがつえぇぇぇ!
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