第6話 神谷司がくる。

 三人で喫茶店を出ると、立花さんの名前を呼びながら手を振り近づいてくる人物がいる。


「沙織〜、帰ってくるの遅いから心配で来たよ〜」


 立花さんの幼馴染の神谷司だ。


「司、恥ずかしいからやめて。それに心配って……私は幼稚園児か!」


 それを見ていた俺の腕を妹の瑠華がツンツンと突いた。


「……お兄ちゃん、あの人は誰?」


 そして小声で聞いてくる。


「立花さんの幼馴染」


「……ふ〜ん。なんか思ってたのと、ちょっと違うね」


「どんな奴と思ってた?」


「えっとね、二重顎で三段腹のぽっちゃり君と思ってた。すっごいイケメンだね」


 ……瑠華は想像力が豊かだねぇ。かなり偏ってるけど。


「沙織〜。プレゼントはもう買ったの〜?」


「うっさいバカ。見て分かるでしょ」


 相変わらず仲の良いことで。俺と妹は空気ですね。


「じゃあ、一緒に買いに行こ」


「あのねぇ、私はこれから用事があるの。そのあと一人で買いに行くから、司はさっさと一人で帰って」


「用事って何? ……あれ? 橋野いたの?」


「よっ」


 今頃気づいたか。お前の視野角は三か?


「ん? 隣にいる子は……彼女?」


「妹」


 ……神谷司も立花さんも、妹を彼女と間違えるとは、眼科に行った方がいいんじゃない?


「で、沙織の用事って何?」


「橋野君の妹さんと今から買い物に行くの」


「じゃあ、僕も一緒に——」


「どうしてそうなるの? 遠慮しなさいよ。バカじゃないの?」


「だって、沙織のそばにいたいから」


「ホントに気持ち悪いから、そういうの言わないで」


 瑠華が二人の会話を見てクスッと笑った。


「お二人はとても仲が良いんですね」


 と、妹は楽しそうに言った。


「そう僕と沙織はラブラブなんだよ」


「……瑠華ちゃんごめんね。司が暴走してるから今日は帰るね」


 立花さんは呆れた表情で神谷司を見ている。


「橋野、また明日な」


「ああ、また明日」


「瑠華ちゃん。またね」


「はい。またです」


 そして俺達は立花さんと別れた。


「沙織さんって幼馴染君がいると、雰囲気ガラッと変わるんだね。びっくりしちゃった」


「そうだな。俺も初めて見た時は驚いたよ」


「お兄ちゃん」


「なに?」


「頑張ってね」


「なにを?」


 瑠華はまたクスッと笑った。


 妹はたま〜に訳のわからない事を言う。今回も俺の頭脳では理解不能だ。


 それから二人で瑠華の誕生日プレゼントを買いに行った。


 瑠華が選んだのは自分の誕生石のついた指輪。


「お兄ちゃんありがと。大切にするね」


 予算をかなりオーバーして財布が空っぽになったけど、瑠華が予想以上に喜んでいたから良しとしますか。


 ◇◆◇


 そして次の日の学校で、朝から神谷司が立花さんから貰った誕生日プレゼントの自慢を延々としていた。


 ◇◆◇


 昼休み終了間近、神谷司が俺に近づいてきた。


「橋野」


「なに?」


「ちょっと放課後残ってもらえないかな?」


「なんで?」


「いや、あのさ、話があるんだ」


「二人だけで?」


「うん」


 神谷司が俺に話ってなんだ? 挨拶する程度の仲で何か話すことあるのか? 


 まっ、こんな時は——


「断る」


「えっ?」


 はっきり言ってめんどくさい。


「橋野〜。そんなこと言わずにたのむよ〜」


「残念ながら、俺にメリットが有るとは思えないからね」


「おねがいします」


 神谷司が頭を下げる。周りがこちらを興味津々に見ている。


 ヤバいな。このままだと絶対に俺が悪者になる。


「わかった、わかった。放課後だな」


「うん。約束だよ。帰ったらダメだからね」


「はいはい」


 神谷司……いったい何なんだ? 意味がわからねぇ。

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