2日目
ベッドの上に寝ているのは老夫の遺体。
遠目から白髭を生やした壮年の御者を見ると、ただ眠っているように思われるかもしれない。
けれど近づいてみると、首元の異常が見える。
喉仏の真下で肉体の繋がりが断たれており、その赤黒い断面から頸椎や筋肉層が覗いている。
俺は咄嗟に毛布を上に引っ張り、その外傷を隠した。
戦場に出向き血に慣れている俺や
現に奥さんは嘔吐の様子を見せ、夫が呆然としながらもその背中をさすっている。
ヒーラーたちの反応も、似たようなものだ。
細身の青年ルフレは口元を覆い、強気な少女であるエイラもこの時ばかりは顔を青くして黙っている。
屈強な出で立ちのダイアンはその傷を見て固まったままだが、俺が肩を叩くと意識を取り戻し、遺体に向けて祈りを唱え始めた。
俺も混乱していたが、戦場で応急係を担っていたせいだろう。
思考より先に、次にすべき行動を告げる声が出ていた。
「……全員この部屋を出ましょう。俺たちは一旦、頭を冷やす必要がある」
□□□
まだほんの少し冷たい空気の流れる早朝。
皆が一階の食卓を囲い、そして黙っていた。
奥さんのベルナさんは部屋を出てから吐き気をこらえきれず、外で旦那の介抱の下、気を落ち着けようとしている。
「お茶をどうぞ。聖水に数種類のハーブを混ぜましたので、リラックスできるはずです」
ルフレが皆に運んできた茶は、鼻を突き抜ける爽やかさがあった。
外の夫婦へもコップを持っていったが、確かにこれなら気分も安らぐだろう。
しかし貴重な聖水を使っても良いのかと尋ねれば、人助けに使えるなら本望だと笑った。
更には好きなときに使って下さいと、聖水の入った容器を台所にいくつも置いてくれた。
「それにしても、こんな山奥で殺人とはな。驚かされたよ」
俺の言葉に、ダイアンはふっと息を吐いて答える。
「いいや、あり得るとも。この山奥で一軒しかない家は、罪をおかしても憲兵に捕まらず、追跡も困難。一人しか殺さなかったのは、時間がなかったからかも知れんぞ」
「仮に盗みをはたらいたとして、その後はどうなるの? 夜中にこんな山道をかけていったとでも言うの?」
「つまり何じゃ? お前らの中にワシの家で殺人なぞ犯しおった不届き者がいるとういのか。ワシの妻をここまで怯えさせ寄った奴が……許さんぞ」
雰囲気が悪くなったので、慌てて俺が仲裁に入った。
まだ何も分かっていないのに、憶測だけで議論し合っても仕方ない。
「まあまあ、とにかく落ち着こう。俺たちはまだ、何も調べてないじゃないか。もし襲撃者がいたのなら、その手がかりが残ってないか調べてからでも良いだろう」
「そして犯人がいれば、その証拠を見つけて突きつけてやる、ってこと?」
エイラの鋭い眼が俺をジッと睨む。
顔が整っているからこそ、俺はその表情に身をすくませた。
「強盗はいなかったと分かってしまったら、この6人の中に犯人がいるということでしょ。そうなったら、犯人は自分の正体がバレる前に私たち全員を殺そうとしてくるかもしれない。だったら何もせず、黙っている方が良い」
「それには反対だ。むしろ今この瞬間にも、犯人は次の殺人を計画しているかもしれない。だから犯人を早く見つけ出すことが、俺たちの防衛手段にもなる」
夫妻の話では、次に馬車が通るのは早くて午後。
それまでに殺人者を捉えるか身の安全を確保しなくては、最悪俺たちは犯人を残して全滅するかもしれない。
「ふん、だったら貴方が勝手に犯人捜しをしてよ。それで一番に殺される危険を背負っても良いならね」
そういうと彼女はそっぽを向いてしまった。
他の人は、俺に期待するような眼差しを向けた。
これは、俺がこの事件の調査をしなくてはいけない空気なのか?
「と、とりあえず家の様子を調べよう。強盗なら盗まれたものがあるだろうし、窓ガラスが割れたり、鍵が壊されたりと侵入の跡が残ってるかもしれない。馬を使えば、蹄の跡も道にあるはずだ」
俺が立ち上がると、ダイアンとルフレ、そしてルルドの旦那さんが後に続いた。
椅子に座ったままなのは、まだ気分が悪いベルナさんと俺から顔を背け続けるエイラ。
とりあえず二人一組で辺りを調べる。俺はルルドさんと家の中を、残る二人は外を調べた。
□□□
「奥さんのこと、大事に思っているんですね」
「ああ、この家でずっとワシを支えてくれとる。何よりも大事じゃな」
調査の途中で、俺はルルドさんに声をかける。
俺たちまずは二階を調べて、何か異常がないか見て回った。
特に夫婦の寝ていた部屋には貯蓄が隠してあり、彼はまずそれを気にしていた。
幸い、どこも大きく荒らされた形跡はなかった。
「だからもし俺たちの中に犯人がいたら……」
「ああ、許せんのお。親切を仇で返すとはこのことよ。本当なら一人一人いたぶって罪を吐かせてやりたいが、荒事は妻が好まんからな」
……奥さんの優しさに感謝だな。
次に俺たちは、殺害現場である部屋に入った。
窓や部屋は綺麗な状態で、争った形跡はない。
衛生兵の知見で観察すると、凶器のダガーとシーツにこびりついた血の様子から、襲われた時間は昨日の夜中で間違いないだろう。
被害者の毛布も昨晩に整えたまま。彼は眠った状態で、犯人に首を切られて死んだと考えるのが妥当だ。
「おや、この方の荷物が消えてはおらんか」
ルルドさんに言われてみると、確かに彼の所持品が部屋から消えていた。
ダイアンが、恐らく御者の大事なものだろうといくつか布で包んで運んできた荷物が、全てなくなっていた。
量自体はカバン一つに入るほどだけれど、どこかになくすほど小さくはない。
ルルドさんは、短い顎髭をさする。
「ふむ、では物取りの犯行かのお。しかしわざわざ、この男を狙うのも不自然。もしや、この御者自身が盗賊か貴族の間者スパイで重要な物を運んでおり、それを知った暗殺者が彼をつけねらっていたか」
「ルルドさん、サスペンス小説とか好きなんですか?」
「さすぺんすが何かは知らんが、本は山中生活の暇つぶしによく読んじょるぞ。ハラハラするものが好きじゃな」
妻想いで小説好きの老人、か。
下手に話を振っては、勝手に妄想を膨らませていきそうだ。
もし彼が殺人犯なら、この騎手が妻を襲おうと勘違いして、手をかけてしまったなんてこともあるのだろうか。
「そういえば、昨晩は何をしていました? こう、犯人の侵入する音を聞いたとか」
「いいや、ワシは妻を抱えてぐっすり寝ておった。横に斧を置いてのお。これでもし、お前らの誰かがワシの妻を襲いに来ても、気配を察知した瞬間にすぐさま返り討ちにできたというわけじゃ」
「な、中々徹底した対策をしていますね。ところで、もし俺たちの中に犯人がいるとしたら、誰だと想います?」
「そうじゃな……あの、ルフレとかいう優男かのう。大体事件が起きたら、一番犯人にみえない男が犯人なものなんじゃ。その点で言えば、次点はお前さんじゃがな」
何かと物騒な人であった。
自分の経験と勘を大事にする人なのだろう。
□□□
次に俺は、自分の部屋にダイアンを呼んで調査結果を聞いた。
俺はベッドで、ダイアンは椅子に腰掛けて向かい合う。
あくまで内部に犯人がいるかもしれない今、余計な詮索を避けるために二人きりとなった。
奥さんが調理の準備をし、エイラがそれを手伝っている。
旦那さんとルフレは、遺体を埋めるための墓穴堀りだ。
「外の道には人も獣も通った跡はなし、侵入経路を知る手がかりもなしだ!! というか、昨晩は俺が一階で寝ていただろう? 誰かが外から行き来すれば、すぐに気付いたはずだ。だから犯人は身内。間違いねえだろうよ」
「そうか……ところで、昨晩は何をしていたんだ? 窓の外で、夜中にお前がうろつく姿を見ちゃってさ」
「お前さんが寝ぼけてたんじゃないか? ……いや、冗談だよ。隠すことはないさ。馬の様子が気になったんで、見に行っただけさ」
そういえば、彼はいかつい体に相反して、思いやりというか、修道士らしい敬虔さがある。
遺体をみて即座に蘇生魔法をかけようとしていたが、あれだって一歩間違えればヒーラーの命も危ういはずなのだ。
今も率先して調査に協力してくれているし、ヒーラーの中では一番ヒーラーらしい慈愛の存在だな。
「馬の様子……じゃあそのときに誰かが忍びこんだ可能性は?」
「ないな。あのときは確か、ルフレも下に降りてきたはずだぜ。喉が渇いたので水が欲しいってな。そこで、アイツが一階にいる間だけ、俺が外に出た。そして俺が戻った後で、ルフレも二階の寝室に帰ったのさ」
「そうか……他に変なことはなかったか? 二階から大きな音がしたとか」
「いや、気付かなかったな。だがそう、変な事と言えば、凶器のことだ」
「凶器って、ダガーのことか」
「ああ、あれは元々あの御者のものだ。生きているうちに彼が俺に自慢してきたから間違いない。獣に襲われても対応できるようにってな。結局、魔獣に襲われたときには身につけてなかったから役に立たなかったんだが、もし殺人が計画的だったら、相手の道具を頼りにするより、自分の道具を使うとは思わないか?」
「確かに人を殺すとなったら、自分で道具を用意するかもな」
「つまりこれは計画的ではなく、突発的な殺人だと?」
「そうさ。例えば、あの騎手は夜中に目が覚めて、ここがどこだか確かめようとした。そこで夫婦の部屋を覗いたところ、見ちゃいけないものを見てしまい、口封じのために殺された、とかな」
「……それはあの夫婦が犯人だと、言ってるのか?」
ダイアンは笑って肩をすくめてみせた。
「いいや、勝手な想像さ。だがおとぎ話にもあるだろ、人里離れた家には、旅人を殺し金品を簒奪する殺人鬼がいるってな。それにあの魔獣に襲われたのも偶然じゃなく、あの夫婦が飼い慣らしてたとしたら……なんてな。そんな殺人鬼がいたとして、なんで俺たち全員を殺さなかったのか、って話だ」
確かにこの事件にはまだ謎が多い。
何が偶然で、何が意図的なのか。
それを紐解かなくては、いくらでももっともな憶測が立てられてしまう。
最後、俺が礼を言って、扉を開いたときにダイアンが耳元で呟いた。
「まあ、殺人はともかく、あのエイラって女には気をつけろよ。どうやら彼女、ここで足止めを食らっていることに随分とご立腹みたいだ。下手に刺激すると咬まれるぞ」
□□□
ルフレの側に近づくと、薬草の香りが漂ってきた。
決して草の湿った嫌な匂いというわけではなく、むしろミントティーのように爽やかな風味だ。
外で作業をしてる彼は、中腰になりながら木々の間に入り込んでいた。
「どうだ? 墓穴を掘る作業は終わったか」
「ええ、今は人数が多くなった分の食事を、僕が作らせて頂いてるところです」
ルフレは薬草や聖水など、回復魔法だけでなく様々な方法での治療を行っている。
この調理にしろ、朝のハーブティーにしろ、初めて来るこの山の中でこれだけ効能のある植物を見つけて使いこなせるのは手練れである。
「ヒーラーって、回復魔術があるから、それ以外の治療術なんか使う機会がないと思ってたけど、ルフレは色んな方法を使うんだな」
「ええ。お恥ずかしいことに、僕は魔力が少なくてヒーラーの中でも格下ですから。こうやって聖水や薬草を組み合わせることで、ようやく一人前なんですよ」
「いやいや十分立派だよ。聖水だって高価だと聞くのに、奥さんに振舞ってあげたり。でも、どこでそんなに知識を?」
「僕の生まれは田舎でして……、ヒーラーがやってくるのも遅かったんです。それまでは、祖母が薬草師として活動していたので、僕も手伝いの傍ら学びました」
俺と会話しながらも、ルフレは次々と草を選別しては摘み取っていく。
体つきが細いと思っていたが、穴掘りに加え、ずっとしゃがみながらの草取りもしているとなると、体力はあるほうなのだろう。
「ところで、ルフレ。お前夜中にいなくなっていたけど、あの時はどうしていた?」
「ああ、バレてましたか。起こさないつもりだったんですが、すみません。実は少し興奮していて、水でも飲んで落ち着こうと下に降りていたんですよ」
興奮……?
待ってくれ、俺と二人で一緒に眠っていて、なにか興奮するようなことがあったか?
「あ、変な意味ではないですよ。ただ、あの夜闇の中から魔獣がこの小屋を見ているのではと思うと、気が休まらなかっただけですから」
「なるほど(……そういうことにしとくか)。それとこれは余談なんだが、もし俺たちの中に犯人がいるとしたら犯人は誰だと思う?」
「そう、ですね……あまり仲間を疑いたくはないですが、ダイアンさんとかはどうです? 彼はとても真面目そうですし、夜中目覚めた騎士のお爺さんが悪事を働こうとしてるのを知ってしまい、それを阻止するべく殺してしまったとか」
「悪事っていうのは?」
「さあ、思い付きで言っただけですから。でも、見張りの時間にどこかへ出かけて行ったようですし、そこで証拠を捨てに行ってたりして」
□□□
さて、最後にエイラから話を聞かなくてはならない。
けれど恐ろしく不機嫌な彼女に、どう言葉をかけたら良いものか。
丁度悩んでいたところ、彼女が玄関を出て、そのまま道をテクテクと歩いていってしまった。
もしかして、家から離れてどこかに逃げるつもりか?
俺はこっそりと後をつける。数分歩いた頃、彼女は近くの切り株に腰を下ろし、そして俺の方を睨んだ。
強盗でもない俺は、あっという間に尾行がバレていたということだ。
「なにか用、私一人になりたいんだけど」
「用というか、事件に関する話を全員から聴取していてさ、君にも聞きたくて」
「私に協力を求めているの? この顔をみてそう言える?」
「……すまない」
彼女のツンと突き放すような態度には、ついひるんでしまう。
けれど事件の手がかりを知るためにも、何とかして距離を詰めなくては。
「その、エイラが早く都市に戻りたいのは何でなんだ? もし大事な用事だったら、俺も協力してやりたいし」
「貴方が? 何ができるというの?」
「俺自体は何もできないかもだけど、衛生兵としてあちこちを飛び回ってるからさ。色んな仲間がいるんだ、だから彼等の力を借りて、何だってしてやるさ。そうすれば殺人のせいで遅れた分を多少は取り戻せるだろうから」
ピクリ、と彼女のとがった耳が動いた。
そして淡い桃色の髪が揺れ、口元に手を当てて考え事を始めた。
「……人間のことってあまり信用してないの。長命なエルフ族の私と違って、短命だからネズミのようにせわしない。擦り寄ってきては裏切って、大事な約束をしてもすぐに死ぬ」
「そうだな、だけど君は人々を魔法で助けるヒーラーだ。君のお陰で一日を生き残れるし、君もそうしたくてこの役職についたんじゃないのか」
「……これはエゴよ。私の勝手な、私の側に居る人が、少しでも長く私と一緒にいてくれるように、そう願ってこの職業についたの。そして回復魔法を使って三百年……でも私の目的は、果たせなくなってきた」
段々と彼女は顔を下げて、自分の思考をそのまま口にし出した。
恐らく自問自答を頭の中でしているのだろう。
何を言いたいのか上手く掴めないが、彼女の横で俺は静かに話を聴いていた。
やがて無言が続いた後、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「……そうね、じゃあ街に帰ったら貴方に手伝って貰いましょう。でもその前にもう一つ頼みをします」
「……改まってなんだ? できることならなんでもするぞ」
「貴方の態度が気に入らない。もしそんな不躾な捜査で事件を解決できなかったら、街にいる間はずっと私に従うこと。『ご主人様』とでも呼んでもらうわね」
今の憂いのある雰囲気は何だったのか、強気な態度に戻ってしまった。
しかし、滑らかな曲線を描く睫毛の奥で、海のように深い青色が、宝石のように美しく輝く。
不覚にもその活き活きとした表情が可愛らしいなどと思ってしまった。
「だったら俺もそうしよう。もし事件が解決したら、俺のことを『旦那様』とでも呼んで貰おうか」
「え……」
「なんだ、自分からふっかけてきたんじゃないのか?」
「い、いいわ。やってやるもの。その代わりちゃんと言ったことは守りなさい、約束を」
「ああ、約束だ」
日が暮れてきた。
その後、エイラは俺の捜査にすんなりと協力してくれた。
昨晩について、彼女はぐっすりと眠っていた。
しかし、隣の部屋から聞こえた音に目を覚まし、一度だけ自分の部屋を出て隣の部屋を覗いた。
けれど、暗くて中はよくみえず、御者が起きた様子もなかったので部屋に戻ったという。その間、すれ違った人はいなかった。
「以上が私の教えられること。後は自分で頑張って」
それだけ言うと、彼女は山小屋へと戻っていった。
俺はしばらくそこに残り、自分の情報を確かめていく。
(全員から、一通り話は聞き出せた。後は論理を組んでいくだけ)
彼等の証言を並べ、証拠と照らし合わせていく。
これで犯人が浮かび上がれば良いが、そう上手くはいかない。
もう一つ、鍵が欲しい。
「……そもそも、誰が殺したか分かったとして、どうして殺したのかが分からない」
この事件で一番の問題はそこだ。
俺たちは全員、同じ馬車に乗り合わせただけの初対面。
ルルド夫妻にしたって、偶々事故で俺たちと出会ったに過ぎない。
だというのに、殺さなくてはならない理由はなんだ。
そんなことを考えながら山小屋に帰ってくると、御者の埋葬する墓穴が準備し終わっていた。
遺体はダイアンとルフレが防腐処置を行い、あのベッドのシーツや毛布でそのまま包んである。明日の朝に埋葬儀式を行う。
主導するのは、回復術士であると同時に聖職者でもあるダイアンだ。
この共同生活も、葬儀が終わる頃に来る馬車によって終わりを迎える。
それまでに答えを出さなくてはならない。
『これはエゴよ』
彼女の言葉が頭の中に反芻した。
そう、俺たちはエゴという強い欲求を持っている。殺人が起きたのもエゴのせいだ。
けれど、俺たちは人に語ろうとはしない。
殺人者が名乗り出ないのも、自分が殺人者だとバレたくないから……
「……違う。それじゃあ順序が逆だ。犯人は、エゴがあったから御者を殺したんだ」
エイラは都市に早くつきたい理由を言わなかった。
犯人も同じだ。殺人を犯した理由を、そのエゴを暴かれたくないからではないか。
御者の死期を早めた理由。首を切った理由。
そうするしかなかった
「……もしかして」
一つだけ、閃いたことがある。
皆が食事のために集まる机に座る前、俺は階段を上がり、あることを確かめた。
そうして分かったことは、誰にもいうべきでない事実だけだった。
けれど俺は犯人を捜すといった以上、言うしかない。
殺人は、何があろうと殺人なのだから。
……だから俺は、神様を恨むことしかできなかった。
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