総括

 人やモノ、そしてカネが国境を越えて自由に行き来する事を可能にしたグローバル化は、新自由主義という思潮を生んだ。国家の規制を廃し、世界を舞台に自由に経済活動を行うという考えである。まさに資本主義の極みにあるこの思想は、一握りの成功者と成功に手の届かない大多数の人々を峻別し、社会に格差を生んだ。広がる格差は古い時代への逆行現象を起こし、時代は今再び階級社会に戻りつつある。地図上のフロンティアを失った資本主義に市場を提供しているのは増加を続ける人口であり、その一方で、資源に限りのある地球は無制限の人口増加を許容し得ない。人口増加を止め、自己完結的に循環する市場経済を取り戻す事が人類の喫緊の課題であるが、資本主義の発展が止まれば、金融空間で取り引きされる富はその価値を失う。誰もその事態を望まないのなら、結局、国家又はそれに代わる機関が富の偏在を修正しつつ資本主義を存続させていくしかない。そこで一部の資本家の出した答えが、人類による宇宙開拓である。

 IT企業家の中に宇宙ビジネスに乗り出す人が多いのは興味深い現象である。彼らはサイバー空間で取り引きされるカネや金融商品が意味を失いつつある事をよく知っており、保有する富を実質経済に結び付けるために宇宙ビジネスという新たな産業分野を創り出した。人類の宇宙への進出が叶えば、彼らの蓄えた富が価値を取り戻すだけではなく、資本主義という枠組みを崩すことなく、人類は無限に増殖し繁栄を続けることが出来る。問題は、人類が地球の資源を食い尽くし現代文明が滅びるのが先か、技術革新が進み人類が宇宙に移住できる時が来るのが先かである。いずれにせよ、資本主義の申し子である新自由主義者の中から人類の行く末を案じる人たちが現れたことは、成功者たり得ない大多数の人々にとっての朗報であろう。

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