9.やっと人類が! でも逃げ出した

 何かが画面に映った。

 これは……柵? 丸太を使った高さのある柵が見えた。

 柵……街があるのか!?

 嬉しくなって思わず腕を突き上げると、背後から肩を叩かれた。


「うわぁ!!」


 前に転ぶようにして逃げた俺は、慌ててナイフを握りしめて肩を叩いたモノを見る。

 そこには犬人間が立っていた。

 ……へ? この犬は前に会った奴か?

 顔が同じでさっぱりわからないし、毛の色も……前の奴の色なんて覚えてない。


 犬人間が何かをしゃべっているけど、相変わらず何を言っているのかさっぱり。

 でも何やら犬人間は自分を指さして、俺を指さし、そして道の先を指さしている。

 えっと? 襲う訳じゃないんだな? じゃあどういう意味が? ああ、犬も俺と同じ方向に行くぞって事か?


 犬人間は俺の手を取って立ち上がらせると、ズボンに付いた泥をはらってくれた。

 結構いい奴かも。


「この先には街があるのか?」


 犬人間も俺の言葉は理解できない様だけど、俺を指さして道の先を指さした。

 行くぞって事かな。

 予想通り犬人間は歩きだした。


 この犬人間の身長は俺よりも大きいから百八十センチほどか? 人みたいな姿をしているけど、顔も手足も犬そのものだ。

 少しぼろいズボンとシャツを着ているけれど、あ、指が人間並みに長いんだな。


 しばらく歩いていると丸太の柵が見えて来た。

 おお! その先には木で出来た家が見えるぞ! 煙突からは煙が上がり、ああ! 子供たちが遊んでる!

 見た感じ……文明は低そうだ。

 車やバイクといったものは見当たらず、街の人の服装も随分とぼろい。


 犬人間と大差が無いな。


 走り出したいのをグッと我慢して、何とか平静を装って犬人間と歩いている。

 子供たちが俺達に気が付いた。

 おお子供達よ! 今すぐ抱きしめたやりた……あれ?


 家から親らしき人たちが慌てて現れ、子供たちを家に入れた。

 ん? よそ者には厳しい街なのかな? いや、街って言うか村って言った方が良いか。

 犬人間がチョンチョンと俺の肩をつつく。


「ん? なに?」


 犬人間はドッグフードを食う仕草をした。

 ああ、案内した礼によこせってか? まあいいや、一人なら小さい奴でいいだろうし。

 俺はリュックを漁る振りをしながらアメイゾンで注文し、リュックから取り出した。

 犬人間に渡すとご機嫌で手を振って、来た道を戻っていった。


「さて、まずは村に入りたいんだけど……おわ!?」


 村人たちが手にクワやなたを持ち、村の入り口付近に集まってる。

 えっと、あの、人類みな兄弟ですよね?

 そうだ、まずはヘルメットを脱いで、敵意が無いことを伝えよう。


 あかん、ヘルメットを抜いて両手を上げて話しかけても、全く武器を下そうとしない。

 こ、これは予想以上に緊迫してるぞ? 俺の呼吸も荒くなってきた。

 どうしろって言うんだよ……喉も乾いてきたな、水筒の水をグビグビのんで、村人を見る。


 ん? 俺を見てるけど、目線がズレてないか?

 俺の少しだけ右側……水筒? 水筒を見てるのかな?

 右手に持っている水筒を左手に持って腕を伸ばすと、村人の顔は左に行き、右手に持って腕を伸ばすと右を向いた。


「水が欲しいのかな?」


 ゴソゴソとスマホを触り、商品を注文してリュックの中に……!!

 俺はリュックを落としてしまった。


「おも! そういえば十二リットルが二本だから二十四キロか? そりゃ落とすだろうな」


 ウォーターサーバー用の水を買ったけど、重すぎた。

 何とか一本を持ち上げて村人たちに見せると、歓声を上げて俺に走り寄ってきた。

 おお~やっぱり水が欲しかったのか。水不足なのかな?


 水を二本とも渡したけど、やっぱり言葉はわからなかった。

 英語とも違うし中国やロシアとも違う。

 全く効いた事がない言葉だ。

 こりゃ~この先が思いやられるな。


 その日の村はお祭り騒ぎだった。

 水を何本も出して飲み水が行きわたると、村長らしき人の家に案内されて食事をもらった。

 野菜が多いけど、肉も少しある……けど味が薄い。

 調味料が無いのかな? 塩コショウをかければ肉は大体美味いのに。

 ……コショウって高級品何だっけ。


 なぜか酒が出されたけど、なるほど、よく見たら酒樽はあるけど水瓶は空になっていた。

 水代わりに酒を飲んで凌いでいたのかな。

 料理を全部酒でするわけにもいかないだろうしな。


 夜遅くまで騒ぎが続き、俺は疲れから早々にベッドに横になってしまった。

 ああ、久しぶりの床と天井とベッドだ!

 風でテントが揺れる事もない!

 これはグッスリ眠れそう……ん? ドアがノックされたぞ?


「はい?」


 言葉は通じなくても一応返事をすると、ドアがゆっくりと開く。

 そこには薄着の若い女性が数名立っていた。

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