第一話 卒業から始まる物語

春木said________________


今日は天気も良く、並木道の桜は七分咲のいい日だ。


「ねぇ、今日でこの制服ともお別れだね」

「そうだね」

「着るの今日で最後だから、2人で汚しちゃおっか」

「それは嫌だ」


制服には、思い出が詰まっている。

そんな大切な物を汚すなんて僕にはできない。

何よりも、僕たちの3年間の思い出が詰まっているから、大事に取っておきたいのである。


「ねぇ、卒業式の後、告白されるかもしれないとか、期待してない?」


紗芽は、ニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。


「別に。同学年の子に、気になる子なんていないよ。でも、呼び出されたら、その告白は断るかな……」

「なんで?」

「それは……」


言える訳が無い。

僕には、キミがいるからだとか、絶対に言えない。


「紗芽が寂しがるだろ、俺が誰かと付き合うと」

「まあ、確かにそうだね……」

「だから、中学の同級生とは付き合わない」

「そっか……、てか、私の事好き過ぎない!!」


当たり前だろ、誰よりも好きだ。

でも、これは友達としての好きであって、女の子として好きという訳ではないのだ。


「まあね、でも、お前とは付き合えないかな〜」

「なんでよ!?」

「まあ、想像におまかせということでお願いします」

「なんでそこだけ丁寧なのよ!!」

「さあ、どうしてでしょ〜?」


弄るのはこの辺にしておこう。そろそろ学校に着く。

僕らは校門の前からは別々に登校する。


「じゃあ、また放課後ここで会おうね」

「うん」

「なんだよ、寂しそうだな」

「うん」

「いつものやるか?」

「お願い」

「わかった」


僕は紗芽を優しく抱きしめる。

その後に紗芽が強く抱きしめ返す。

ハグが僕らの最大のコミュニケーションである。


「少し怖いのか?」

「だって、私の春木が誰かのになるかもしれない現実を受け止められないの、私」

「大丈夫だよ、この学校の子のものにはならないから、心配するな」

「ホント?」

「約束するよ」

「わかった。もう大丈夫」


紗芽の力が少し緩む。

僕が離れようとした時



と耳元囁き、紗芽は僕の頬にキスをした。


「ちょっ!?」

「じゃあ、また放課後!!」


逃げられてしまった。

不意打ちのキスなんて


「そんなの……、反則だろ」


とりあえず鼓動を落ち着かせてクラスに入ろう

こうして僕はまたしても紗芽に落とされそうになったのだった。










紗芽side________________


やってしまった……

私は下足室で顔を真っ赤にしながら上履きに履き替える。

まさか、キスしてしまうなんて、本当に欲求が抑えきれなくなってる……


「でも……、制服が汚れるくらいすごいプレイしようと思ってたのに、なんで拒否するかな〜!!」

「ご機嫌斜めだね〜、紗芽お嬢!!」

「きゃあっ!?」


1人でブツブツ言っていたせいで、背後から近付いて来ていた女子生徒変態女に捕まってしまった。


「ちょっと、皆見てるからやめよ〜!!」

「みんなが居なければいいのかにゃ〜?あっ、これはこれから成長の兆しがあるちっぱいですな〜!!サイズは……」

「それ以上はアンタ、命が無いと思いなさい!!」


サイズを口走ろうとしやがったので、私は女子生徒の口に指を3本入れた。


「わかったなら、頷きなさい。わからない場合は何もしなくていいわ。その代わり、沈黙は禁止よ!!」


私が睨むと、女子生徒は2回頷いたので、私は指を抜いた。

しかし女子生徒は、私の耳元で


「私、小町三鈴こまちみすずって言います。貴方は、芹澤紗芽さんですね、サイズは上から80、52、48。しかも成長期ともなれば、彼氏の一人や二人くらいいるんじゃないですか?」

「いるわけない無いでしょ!!」

「にゃっはっは〜、あまり大きい声出さない方がいいよ!!サイズがバレちゃうから〜!!そんじゃ〜ね!!」

「あっ!!ちょっと待ちなさいよ〜!!」


逃げられてしまった。

次会った時は許さないし、逃がさない。

そう決意を決め、私は教室に向かった。





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