第58話

〈ユウ視点〉







寝室のベッドの中で色々と

嫌な予想が頭を回り眠れないでいた





伊織が洗い物をしている音が聞こえてきて

せっかく作ってくれたのに悪かったと思いながらも

毛布の中から出て行く事はなかった…





伊織がシャワーを浴びてリビングに行ったまま

中々寝室に来ない事にも苛立ちを感じていて

伊織が俺の元に、言い訳なり何か

言いに来てくれるんじゃないかとどこかで

期待しているから眠れずに伊織を待っているんだと

気づいたが、伊織は俺の元に中々来ないし

苛立ちは不安に変わっていく…





ベッドの上に置かれている

時計の秒針を刻む音だけが

聞こえてきて「はぁ…」と息が漏れ

どれ位時間が経ったのかは分からないが

寝室の扉が開く音が聞こえドキッとした…





伊織から何か言われるのが怖く

寝たフリをしていると

ギシッとベッドの軋む音が聞こえ

ちゃんと隣で寝てくれるんだと

分かり少しホッとしていると…





ユウ「・・・・!?」





伊織が俺の頭を撫でていることが分かり

驚いたが何も言わずそのまま寝たフリを続け

撫でられている心地よさに意識を預けていた





「・・・・寝たフリしないでよ…」





伊織の弱々しい声が聞こえてきて

目をゆっくり開けると

伊織は俺と目が合うと撫でている手を止めて

「優君」と話をしようとするから






ユウ「手…止めんな…」





「・・・・・・・・」





ユウ「もう少し甘やかせよ…」






そう言って伊織の方に体ごと向けて「撫でて」

と目を閉じて言った…



伊織は小さくタメ息を吐いて何も言わずに

俺の頭を再度撫で始め、また少し不安を感じる…





伊織のタメ息は、また俺のガキみたいな

態度に対して出たんじゃないかと…

また俺に疲れたと感じているんじゃないかと

不安になってきて自分の手を伊織の方に伸ばし

手探りで伊織の腰を見つけると甘えるように

手を腰に当て伊織の服を軽く掴んだ…





伊織の動く気配がし直ぐに俺のこめかみに

柔らかい感触がした…





「・・泣き虫な王子様だよね…笑」





伊織の優しく笑う声が聞こえて目を開けると

視界の端のまつ毛が濡れているのが分かり

俺はまた泣いていたみたいだ…





頭を撫でていた手を止めて俺の頬に流れている

涙を手で拭き取る伊織を見ながら





ユウ「・・・疲れるか?」





と質問した…

伊織は笑った顔のまま俺を見つめていて

また俺の頭を撫で始めた





「どっちかって言うと面倒くさいかな?笑」





ユウ「・・・・悪かったな…」





「ふふ…お昼いないのいつ気づいたの?」





ユウ「・・・先週…」





「えー、最初から??」





ユウ「・・・・何…してるんだ?」





もう一度伊織に問いかけてみると

伊織は笑っていた顔が段々と困った顔になっていき






「・・あんまり本人には言いたくないんだけど…」






俺はまた、しつこくされるのは嫌とでも

言われるのかと思い体を伊織に寄せて

伊織の胸元に顔を埋め「何を」と聞いた






「・・・クリスマス…」





ユウ「・・・・・・はっ?」






俺は予想もしていなかったワードに一瞬固まり

顔を上げると、伊織は俺の肩を押して自分の胸元か

引き離すと「もぉ…」と怒ったタメ息を吐きながら

俺に背中を向けて横になった






ユウ「クリスマスがなんだ?」





「・・・・・・・」





ユウ「何か欲しいもんでもあるのか?」





「・・・・・私だってサプライズ位したいのょ…」





ユウ「・・・・・・・」





俺は何となく伊織が秘密にしていた事が

分かってきて、伊織を後ろから抱きしめた






ユウ「・・・・俺に何かしようとしてたのか…?」





「・・・・他に誰にするのよ…」






伊織の言葉が嬉しくて抱きしめる腕の力を強めて

首筋にチュッと唇を当てた





「三村さんと…短期アルバイトしてるの…

 お互い働いてないから…

 旦那さん…に…サプライズで

 クリスマスプレゼントあげようって…」





ユウ「前話してたモールで会った客か?」





「そう…まさかこんなに早くバレるなんて…」





ユウ「・・・・・・・・」





伊織の声は後半…少し怒っていて

どうしようかとも思ったが…





ユウ「・・・・お互いの…旦那さんに?笑」





「・・・・・・・」





伊織のさっきの言葉が嬉しく、再度聞き直すと

伊織は黙ったまま相手をしてくれず「なぁ…」と

甘えた声で呼んでみても無視だった





ユウ「・・・ごめんな…」






「・・・・・・・・」





ユウ「伊織とは…昼間連絡もとれねーし…

  不安になった…」





「・・・・不安?」





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