第51話

〈伊織視点〉







金曜日に仕事を辞めて次の日は土曜日で

滅多に取れなかった土日の休日だったから

何をしようかなと思っていたけど…

2日間ずっと不動産回りをしていた…






そして・・・

ある事に優君は機嫌を悪くして…

怒って帰って行った…







「・・・・あんなに怒らなくても…」







3件目の不動産屋の担当者さんが私の事を

奥さんだと勘違いしていて「専業主婦ですか?」

と聞かれ、引っ越しが落ち着いたらまた

働き出そうと思っていると伝えると

彼の中ではその考えはなかったようで…






お見合いをした時はあんなお店早く辞めて

家庭に逃げたかったのは事実だったけど…





なんだが、このまま優君に甘えて

ヒモ女みたいになるのは気が進まなかった…





前のようにフルでなくとも多少は

仕事に行って妊娠をした時に辞めたらいいかなと

思っていたんだけど…






(・・・・・・・・・・)






大した事でもないし、2~3日すれば機嫌も

直るだろうとほっとく事にした…





だけど、優君からは

金曜日になっても連絡はこなくて…

なんとなく少し…不安になってきた私は

モールで会って個人的に連絡先を交換していた

三村さんに電話をして相談をしてみた…






三「えー!!それは伊織さんが悪いですよー!」






「えっ!?私ですか??」






三「だって、最初のお見合いで仕事を辞めて

  結婚の準備を早めにしてほしいって

  言われていたんですよね??」






「そぉ…なんですけど…

 でも、なんか…ヒモ…みたいで落ち着かなくて」



 


三「え!?だって結婚前提なんですよね??

  ヒモじゃなくて、扶養ですから!笑

 

  その分お家の家事とかは全部私達が

  しなくちゃいけないんですけど…

  共働きでないならソレが普通ですよ!」





「でも…まだ正式に入籍もしてないのに…

 そんな風に甘えれないです… 」





三「・・・プッ!笑

  伊織さんはお店では頼もしいイメージ

  なのに…恋になると可愛いんですね?笑」





「かっ可愛い??」





三「お見合い結婚では甘えれて

  恋愛結婚になるとなんで甘えれないんです?笑」





「・・・・・・・・」






三村さんから言われた事を考えながら

どうしたらいいのか分からず

買い出しついでに久しぶりに

レンタルショップにも立ち寄って

何か借りようかと店内を歩き

私がいつも見るアクション系の棚の

前を通り足を止めた…





あの好きなカーアクションのDVDが全巻レンタル

されていて、なんとなく彼だと思った…






「・・・・・・・・・」





会いたいし、仲直りしたいけど…

どうしていいのかが分からなかった…





( 前の彼の時はこんな事思わなかったのに… )





私は一階のスーパーで食材を買って

そのまま彼のマンションへと向かった…




マンションの前に着きスマホで時間を

確認すると19時を過ぎているから

残業でなければ帰っているけど金曜日だから

先週のように同僚と飲みに出ているかもと

考えたままインターホンを押せないでいた…





( ・・・・・明日にしよう… )


 




そう思って体を反転させて帰ろうとすると

仕事帰りの優君が立っていた…






ユウ「・・・・なんで押さない…」





「・・・・お帰り…なさい…」





ユウ「・・・はぁー…・・入れ…」






優君は決して機嫌は良さそうじゃないけど

そこまで怖い感じはなかったから

彼の後をついて行き

開いた自動ドアの中へ足を進めた






部屋に入って一言も発してくれず

まだ怒ってはいるんだと理解して

どこに座ろうかと悩んでいると

「ソファーに座れ」とキッチンにいる彼から

そう言われおずおずと腰を降ろした





冷蔵庫の閉まる音が聞こえると

彼は手にビールを2本持って近づいて来て

1本を私の前のテーブルにトンっと置いた





「・・・!?・・・」





私の前に置かれたのは私が好きだと言った

銘柄のビールで

彼がワザワザ買ってくれていたんだと

分かり胸の奥がギュッと苦しくなる





「・・・・ゅ…う…君…」





床に座っている彼の名前を呼んでも

返事は返してくれなくて…





「・・・あの…仕事の件なんだけど…」





そう言うと目線だけコッチに向けてくれて

私の言葉を待っている…





「・・・嫌で…」





ユウ「・・・・結婚がか?」






彼の声は怒ってる風ではないけど…

機嫌がいいわけでも無さそうで

私はフルフルと首を横に振って

手元の缶ビールを見ていた





彼が私を思って買ってくれたこの缶ビールを

見ていると段々と鼻の奥がツンとしてきて

涙が滲んできた…






「・・・隣に…来て…」





そう彼に言うと優君はしばらくは

動かなかったけど腰を上げて私の隣に座ってくれた






「・・・・イヤだったの…嫌われてそうで…」





ユウ「・・・・・・」





「仕事しないで…生活費全部優君に甘えてたら…

 ヒモみたいだなって思って…

  嫌われないかなって…」


 



ユウ「・・・・・」






「私…一応年上だし…」





ユウ「・・・・俺は伊織と早く一緒に住みてーし

  帰って来たら伊織からさっきみてーに

  〈お帰りなさい〉って言ってもらいてー…」






顔を上げてゆっくり彼の方に顔を向けると

優君もコッチを見ていて「意味分かるか?」

と聞いてきた…






「・・・・・・・」






ユウ「前に伊織に結婚しようって言った時は

  ぼんやりとした感情だったが

  今はハッキリとして見える…」





「・・・・優君…」





ユウ「でも、今はお前の気持ちがわからねー

  近づいたと思ったら直ぐに離れるし…」





「・・・・・・・・」







三村さんから電話で言われた言葉の意味…

本当は分かってる…

 





「お見合い結婚だったら…甘えれるの…

 多分…ずるい事考えて割り切ってるから…」





ユウ「・・・・・・・」






「でも…甘えれなくなったの…

 割り切って考えれないから…」





ユウ「・・・・・なんで?」


 




優君も答えは分かってるはずだ…

それでも聞き返すのは…






ユウ「・・・伊織・・なんで割り切れない?」





「・・・・多分・・優君の事が好きなの…」






右腕を強く引っ張られて

一気に視界の前が暗くなり息苦しさを感じた…





「・・ンッ・・」





彼の唇は柔らかいけど少し痛いと感じる位に

荒く口付けてくるから息が上手く吸えなくて

私の苦しがる声と彼が角度変えるたびに立てる

イヤラしいリップ音だけが部屋に響いている





息苦しさの限界がきて、くもった鳴き声をあげると

唇はようやく離されて





ユウ「多分はいらねぇ…ハッキリしろ」





と言ってまた荒く口付けてくる…

普段は可愛いくて生意気で面倒くさいけど

急に〝男の人〟になる彼…





( 私の王子様はたまに意地悪だ… )





伝えたくてもこんなキスの中じゃ言葉にできない…

手に握っていたビール缶は倒れて零れているし…





でも…彼えの気持ちを認めたからなのか

この荒々しい乱暴なキスすらも心地よく感じて

(もっと)と彼をもとめていた…









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る