第44話

〈ジン視点〉






水曜日の朝いつもなら早めに出勤してくる

優の姿が勤務開始10分前になってもなく

どうしたんだと思いながらコーヒーを

口に運んでいると5分前に早足で部屋に入ってきた







課「中須君、珍しいね?」





ユウ「すみません、以後気をつけます」





課「いやいや、いつも30分前には席について

  いるから何かあったのかと思ったんだよ」







課長の言う通りこんなギリギリに出勤したのは

初めてで伊織さんとの事が余程ショックなのかと

少し心配になり、昼食は外に連れ出した







ジン「・・・お前…目…」






仕事中はブルーライトカットの眼鏡をしていたから

気づかなかったが優の目は少し腫れていて

昨日泣いていたんだと分かった…





ユウ「あぁ…ギリギリまで冷やしたんですけど…」





そう言いながら顔を手元の定食に向けて

気まずそうにしたから

ふれられたくない話なんだろうと思った





(昨日の休みは一日泣いていたのか?)





昨日は伊織さんの誕生日だからと前々から

有休希望を出していて仕事を前倒しでこなしていた




だが先週の金曜日に別れたようで

月曜日に優は「忘れる」と言い

昨日の休みもゆっくり過ごすと言っていたんだが…





( そう簡単には無理か… )






ジン「今日の夜付き合え!」




ユウ「え?」




ジン「連れて行く所がある」






優は少し考えた顔をして

スーツのポケットからスマホを取り出し

しばらく眺めて「わかりました」と返事をした






ジン「なんか予定あったのか?」





ユウ「いえ、多分大丈夫です」






そう言って箸をすすめる優を見て

(ん?)と思ったが昨日一日で

新たに好きな女性が出来るはずもないから

大した用事ではないんだろうと気にしなかった






昨日の休んだ分の仕事があるからと

1時間ほど残業する優を休憩室で直樹と待ち

それから3人で目的の場所へと向かった




俺が連れてきたのは個室のある

ちょっとお洒落な店で店員に

「予約した河北です」と

伝えると「お連れ様方も先程お見えです」

と返事が返ってきて…






ナオキ「連れ?3人で飲むんじゃないんですか?」





ジン「いや、6人だぞ?笑」






優もだが直樹も中々の堅物だったから

合コンだとは言わずに二人をここに連れて来た





傷ついた恋は早く忘れてしまった方がいいと思って

午後にバタバタ集めたメンバーだが

優の気晴らしにでもなればと

用意した合コンだった






ナオキ「別の課の人達ですか?」





ジン「まーそんなところだ!笑」





ユウ「・・・何処の課です?」







うるさい堅物二人だが扉を開けてしまえば

大人しく理解するだろうと思い

案内するスタッフの後に続いて個室に入って行った






ジン「いやいや

   お待たせしてしまいましたね?笑」




女「私達も今来たところですよ!」





友人と飲みに行った時に知り合った

近くの会社のOLの子に頼んで来てもらったが





( おっ!! いい感じじゃないか? )





お連れの女の子達は予想よりも可愛いくて

案外上手くいくのも早いかなと思い

席に座ろうとするとガシッと腕を掴まれ

振り返ると怒った顔の優が

「ちょっと」と言って

掴んだ腕を引いて見せの外に連れ出して行く






ユウ「・・合コンなんて聞いてませんよ」





ジン「言ってたら来ないだろうが!!

  お前を励まそうとセッティングしたんだぞ!」






店の前で優と話していると「あのぉ…」

と小さな声がして振り向くとお連れの内の

一人の女の子が立っていて





女「帰られるんですか?」





と優に向かって問いかけるから

彼女は優に興味を持ったらしい…






ジン「いや帰らないよ!笑

  さっ戻って飲もう!飲もう!」





と言いながらユウに店内へ戻るよう

肩を押すが動く気配はなく顔を見ると

優は真っ直ぐ前を見て固まっている…




不思議に思って俺も同じ方向に顔を向けると

伊織さんが立っていた…





( あれ…なんてタイミングなんだ… )





別れて一週間もせず合コンなんて最低だと

思っているだろうと俺も少し戸惑ったが…





(・・・・別れたんだし…問題はないか? )





と思った瞬間、隣に立っていた優が

伊織さんの元に走って行って「違う!」と

弁解しているのが聞こえてきた…




優はまだ伊織さんへの思いが強いんだと…

誤解されたくないんだと分かり

合コンはまだ早すぎたか?

と腰に手を当てて二人を見ていると





ジン「・・・・・ん?」





なんとなく…伊織さんの雰囲気が相席屋で

会った時とは違い…和らいで見える…





必死な顔で説明をする優を

始めは大きな黒目を瞬きしながら見ていたが

今は少し笑って優しい目で優を見ている…





( もしかして?… )






伊織さんは俺が見ている事に気づいて

ペコっと頭を下げてきた…





( 間違いない…あの二人は寄りを戻したんだ… )





優が不安そうに伊織さんの腕を掴むのを見て

ハッとし、俺は二人の元に駆け寄り

二人が別れたと勘違いをして俺が内緒で

セッティングしたんだと

慌てて伊織さんに説明すると

彼女は口の端をフルフルとさせて

吹き出すのを我慢しているようだった…






「出てきた瞬間から見ていて

二人の言い合い聞いてたら何となく分かりました」






口に手を当ててクスクス笑う伊織さんは

可愛らしいイメージに見えた…



前回は年上のお姉さんってイメージで

もう少し堅そうな感じだったから

余計にそう見えるのかもしれないが…





優は伊織さんの言葉を聞くと

ホッとした表情を浮かべて

腕を掴んでいた手を離し

彼女の手に握り直していた





( コイツほんとに伊織さんが… )





優のそんな一面を見て改めて伊織さんが

好きなんだなと思い






ジン「あとは俺と直樹で上手くするから

  伊織さんと帰っていいぞ!」







ユウ「・・・すみませんっていうのも変ですけど…

   気使わせて…すみませんでした…」






ジン「いや、俺が勝手に勘違いしたからいいよ


  まさか目の腫れが

  幸せの涙だとは思わなかったんだよ?笑

  お前、月曜も伊織さんから振られたショックで

  メソメソしてたから昨日は家で

  一人で泣き通してたんだとばっかり!笑」






ユウ「・・・・・・・」


 




俺の言葉を聞いて機嫌の悪い顔をして

首に手を当てながら顔を逸らす優…





それを「へぇー」と言いながら笑って

優の顔を覗き込む伊織さんを見ていると

本当に上手くいったんだなと思い





ジン「イチャつきは家でしてくれ!笑」





と二人を見送ってから

後ろにいた彼女の存在を思い出し





ジン「今いる直樹はいい奴だよー!」





と全力で直樹のセールストークをした…










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