第39話

〈伊織視点〉









気がついたら三村さんとは1時間以上も話していて

慌てて三村さんと別れて映画コーナーに向かった





「・・・・40分かぁ…」





映画が始まって40分は経っていて

最初の10分位は予告だとしても

30分かぁと悩んでいると





ユウ「・・・・次の回で見るか?」





と優君の声聞こえてきて

私の横に立ってコッチを見ている…





「・・・・えっ・・優君?」





ユウ「・・・・・・・」





「・・・仕事・・は?」


 



ユウ「前から…休みとってあった…」





「・・・・・・・」





昨日のスーパーの時みたいに怖くはないけど…

彼は笑ってなくて…

真剣な顔でまっすぐ私の目を見ている…






ユウ「・・・今日一日だけでいい

  明日からはもう…近づかない…」





「・・・優君…」





今日だけは…

先週の金曜日より前の関係に戻りたい

そう言っているのが分かった…




「・・・・次の回にしようか…」




そう言うと彼は少しだけ笑ってくれた…

優君の真顔は苦手だけど

笑った顔は可愛くて好きだった…




一歩私に近づくとゆっくりと私の左手を握ってきて

様子を伺うように目線を合わせてきたから

握られた手を少しだけ握り返すと

彼はホッとしたように笑って「行こう」と

言って手を引いて歩き出した




歩いていると急に振り返り私の足元を見て

「悪りぃ」と小さく謝ると

歩く速度を遅くしだした…



(・・・・・・・)



今日はいつもよりちょっとだけ

高いヒールを履いていたから

そうゆう意味だと分かり少し嬉しくなった




(・・・王子様…か… )




三村さんが言ってた言葉を思い出して

彼をちらっと横目で見てみる…




いつも急に現れる彼はたまに王子様みたいだ…

今日だって…



(・・・現れないで欲しい時もあるけど…)






ユウ「飯はまだだろ?」





「ん?・・うん…映画見ながらポップコーンでも

  食べようと思ってたから…」





ユウ「じゃー先に食うか…」





そう言いながら「何がいい?」とは尋ねてこないで

手を引きながらエスカレーターに乗っていくから

行くお店は決まっているんだろう…




( このモールよく来るのかな? )




連れて来られたのはレストラン街にある

お寿司屋さんで(食べれるかな?)と考えてると




ユウ「小さい手毬寿司がある」




と言いながらレプリカの見本が飾られた

棚を指差ししている





平日ということ事もあり比較的お店も空いていて

4人かけのテーブル席に案内してもらい

優君の言っていた

手毬寿司のランチメニューを頼んだ





( ・・・調べたのかな? )





彼は私がお刺身を好きな事を知っているし

いつもだったら何を食べたいか

必ず聞いてきてた彼が

何も聞かずにこのお店に真っ直ぐ歩いて来たから





「・・・ここ…よく来るの?」




ユウ「・・・入るのは初めてだ」





目線を合わせないでお茶を飲んでいると言う事は

恥ずかしくて、照れているんだろう…

本来のデートプランでは映画の後に

此処に連れてくるつもりだったのかなと

思いながら私もお茶の入った

暖かい湯飲みを持ち上げた





ユウ「・・・迷惑だったか…来て…」




(・・・・・・・)





今日の彼は私に凄く気を遣っているのが分かる…

きっと先週の私が言った言葉を

気にしているんだと思い少し申し訳なくなった…




アレは君にあたっただけだと言ってあげるべきだが

それによって彼がまた私との事に期待をしても

また…傷ついた顔をさせてしまうと思い






「今日は…誰も一緒に来れなかったから…

  優君が来てくれて良かったよ」






と当たり障りなく答えると「そうか」とまた

安堵の笑顔を浮かべる彼を見て少し複雑だった…

彼の歯茎が見える無邪気な笑顔が好きだったのに

今はもう彼にそんな顔をさせてあげれない私は

なんとなく気を落としている…





彼の勧めてくれた手毬寿司は小さくて食べやすく

沢山の種類があったけどペロリと完食してしまった

彼はそれを優しく微笑んで見ていて

その後はモールの中をまた手を繋いで歩いてまわり

楽しみにしてた映画も見て「面白かったね」と

笑って話すけれど…彼は…

ヤッパリあの大好きな笑顔は見せてくれず…

胸の奥が少しチクリとした…





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