第38話

〈伊織視点〉







朝目を覚ましてスマホを確認すると

山ちゃん達からのお祝いのメッセージが届いていた





「29歳かぁ…ほんといつの間にって感じだよ…」





「ん~ッ」と上半身を起こして床に置いてある

仕事用鞄に目を止めてどうしようかと考えた…





( 昨日の今日で渡されても誰もいないよ… )





映画のチケットは今日のお昼からの上映の分で…

無駄にするのも勿体無いから一人で行くことにした






映画館の入っているモールに

思っていたよりも早く着き

店内をブラっと見て回った



洋服屋に入って何着か可愛い洋服を見つけて

鏡の前で当てたりもしたが買えるはずもなく…



数年前は何も考えずに好きな服や靴を

自由に買っていたのがまるで嘘みたいだなと

まるでシンデレラになった気分だった…



あの物語のヒロインは確か初めは

裕福な暮らしをしていて途中から

あんな酷い暮らしに転落したんだよね…





( まっ…最後は王子様が迎えに来るけど… )







三「・・・伊織さん?」





「・・・三村さん…」





後ろから声をかけられて振り返ると

三村さんと男の人が立っていた…




男「だれ?」




三「ほら、通ってたサロンの」




俺「あぁ…」




多分隣の男性は婚約者の方で

この前の話を知っているんだと思い

どんな顔をしていいのか分からないでいると





俺「話はよく聞いていました

  渚がお世話になったようで…少し話したら?」





男性の方は優しく微笑んで挨拶をしてくれて

三村さんに私とお茶をしたらどうかと話し出した…





三「伊織さん、時間大丈夫ですか?

  良かったらソコのお店で

  コーヒー飲みませんか?」





私は三村さんと二人でコーヒーショップへ入り

契約解除の手続きはできたか尋ねた…






三「はい、大丈夫です!

  ・・・伊織さんにお礼を言わなきゃって

  彼とも丁度話してたら…まさか会えるとは!笑」





「お礼ですか?」





三「はい…あの後、彼に話したら

  伊織さんに感謝するべきだって…」





「・・・・え?」





三「あの日の伊織さん…変でしたし…

  きっと会社から…色々言われてるんだろうって

   伊織さん、店長ですし…


  それなのにワザワザ本当の話して解除してくれ

  なんて普通なら言わないだろうって…彼が…」





三村さんの言葉を聞きながら

太ももの上で握っていた手が

フルフルと小さく震え

視界が一気に滲んできた…


 



三「伊織さん…」





三村さんが慌ててバックから

ハンカチを取り出して差し出してきた






三「・・私の担当が陽菜さんで良かったです…笑」





「私も…三村さん…担当できて良かったですよ」






三村さんは笑いながら

コーヒーの入ったティーカップを持ち上げて

「美味しいですね」と前のようなに話してくれた






三「伊織さんも結婚近いですか?笑」





「え???」





三「ふふ…実は前に…カッコイイ彼氏さんと一緒に

  いるの見ちゃったんですよ?笑」





「・・・・それが…その…」






三村さんとは婚約者の男性との

出会いからずっと話を聞いていたから

「違いますよ」とも言いにくく

優君との事を話してみた…






三「えっ!?なんですその御伽噺みたいな展開!」






「御伽噺…ぽいですよね…普通は・・・」






三「だって!!誰でもいいからって婚活行って

  まさかの26歳の王子様が向こうから

  結婚してもいいってワザワザ現れて来たですよ?

 

  もう夢の話じゃないですかー!!」

 





側から聞いたら確かに…

素敵な話なんだと思うけど…





「・・・でも…私の想像とは…違ってて…」





三「伊織さん!!

  お見合い結婚が、恋愛結婚になるなんて

  中々ないですよ??

  皆んな半分は諦めて行くんですから!

  それなのに向こうは前から好意を持っていて

  イケメンで、そんなに大切にされて

  何が嫌なんですか???


  それとも、お腹ポッコリで顔の皮脂も

  ガッツリのったおじさんがいいんですか?」





三村さんの声のトーンはどんどん大きくなっていき

優君を拒む私を「有り得ない」と連呼して

おじさんのジェスチャーをする時の

オーバーリアクションに圧倒されていく…





「・・・・それなり…だったら…まだ…」





三「そのおじさんと毎晩、夜の営みできます?」





「みっ…三村さん!?声が…」





三村さんの言葉に思わず周りを見ながら

声のボリュームを落とすよう手で合図を送ると

「あっ!」と口に手を当ててキョロキョロしている





三「とにかくですね!!

  愛しあって結婚してもレスはくるのに

  そんな、愛もない相手じゃ余計ですよ?」





優君も身体の相性にはこだわってたみたいだし

そんなに重要かなと不思議に思いながら

コーヒーに口をつけていると





三「・・・・伊織さん…

  奥の席のサラリーマンとできますか??」





「え?」と言いながら

顔をさりげなく向けて確認し…

無理と首を横に振り三村さんを見ると





三「左でタブレット触ってる人は??」





また彼女の言う方向を確認し

首を横に振った…






三「ほら!!あの二人は指輪をしてない人です!

  誰でもいいなんて言っても実際は無理ですよ!

 

  何をそんなにお見合い結婚にこだわるんです?

  その26歳と真剣に向き合って

  恋愛してみたらいいじゃないですか??」






「・・・優君と…恋愛を…?」





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