第36話

〈ユウ視点〉







手を差し出してから伊織が掴むまで

とても長い時間に感じていて伊織の手を

握ったまま何も話せないでいる自分に

だいぶ緊張していたんだと分かった…





(・・・・変だな…)





伊織とはキスもして

一度抱いているはずなのに

手を握ってるだけで何処か恥ずかしく

感じている自分がいる…





伊織は照れている俺の頭をツンツンと

触ってきたりして前よりも

俺との壁が薄くなってる気がして

緩む顔を隠す為にワザと不機嫌ぶったりもした…





だけど…伊織は部屋を見に行く話しをしたら

あからさまに戸惑った表情を見せた…





(・・・・・・・)






俺と別れる可能性も考え

新しい部屋を借りるのを躊躇しているんだと分かり

俺の部屋で一緒に住もうと提案した…

伊織が首を縦に振った事に安心し





一緒にレンタルショップへ行き

いつも一方的に見ているだけだった伊織が

横に並んで映画を選んでいる事が嬉しく感じ

一人で浮かれているのが分かった…





伊織が普通に笑いかけて話してくるだけで

喜んでいる俺とは反対に伊織はそんなに

ドキドキしている素振りもなく

俺に特別な感情がない事を表していた…





俺のマンションへ行き部屋を見て回る

伊織に喫茶店で感じた不安を思い出し

家具や家電品をどうするのか

尋ねると売るか捨てるかだと答えたが…





(・・・嘘をついているように思えた…)





伊織はキョトンとした顔で俺を見ているが

俺の不安は消えてくれず、映画の途中で

ソファーに押し倒しその日の夜も

伊織の部屋に泊まって身体を重ねたが…




抱けば抱くほど不安は大きくなっていき

俺の伊織に対する気持ちも色濃くなっていった…




だから、婚約指輪を早めに買いに行こうと提案し

次の日出社したら直ぐに上司に結婚の報告をした






(・・・伊織の気がかわらないように…)

 





デスク端にある卓上カレンダーに目を向けて

「はぁー」とため息がでる…





伊織が少しでも俺を見てくれるようにと

会えるよう時間を作ったりもしていたが

逆効果だったようだ…





ユウ「・・・・・・・」





俺は、伊織もいずれ俺にそんな目を

向けてくれると勝手に思っていた…




一緒に過ごしてキスをして…

身体を重ねていけば…

伊織も俺をそう見てくれるんだと…





だが…伊織にとって俺は

条件を満たした、ただの見合い相手であり

好きになって結婚するわけではないだと

改めて思い知らされた…





伊織が望むような付き合いは

俺には出来ない気がした…

俺は…伊織とは違って好意を抱いているから

距離を近くしたいし身体だけじゃなく

伊織の心も欲している…





それに対して「疲れる」と感じている

伊織とは相容れない気がした…





PCのモニターを見ながら伊織の事を

考えていると「優!」と陽気な声で

呼ばれ背中を叩かれた






ジン「朝から難しい顔してどうした?」




ユウ「・・・別に…」





ジン「・・・・・喧嘩でもしたか?」





ユウ「・・・・・・」





ジン「見られたんだろ?金曜日!!

  ひとみちゃんにタマタマ会ったから

  ちゃんと誤解は解いといてやったぞ

  優は伊織さんに夢中だからないって!笑」





先輩の言葉を聞いて余計虚しくなった…

伊織は土日仕事だから後輩の女からその話を

もう聞いているんだろうが、連絡は無く…

それが答えなんだと分かったからだ…





ユウ「・・・気にもしてないですよ…」





ジン「えっ??」





ユウ「・・・・疲れるそうです…俺といると…」





自分で口にすると、伊織から面と向かって

言われた事を思い出し視界が少し滲んだ






「・・・・・優…」






(・・・離れた方がいいのか?)






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