第30話

〈伊織視点〉






朝イチのお客様を私と山ちゃんの2人で

対応したお客様を下まで見送りに降りた

移転前からのお客様でずっと通ってもらっているが

もしかしたら次の予約の時にはもう

このお店はないかもしれないと思ったから

エレベーターの下まで一緒に降りた…





( 働くのも後2週間かぁ… )





「ありがとうございました」と頭を下げて

お客様の背中が角を曲がったのを見届けると

山ちゃんが「さっ!上がりましょ!」と私の背中を

無理矢理押そうとしてきて





「・・・・気使わなくていいよ?」





そう答えると山ちゃんは背中を押す手を離して

「見えました?」と気まずそうに聞いてきた





「うん、目合ったから」





山「・・・え!?」





エレベーターの扉を閉まらないよう

手で押さえて山ちゃんが入るのを待っているが

彼女は固まったまま動かないでいる





山「目が合ったって・・優さんとですか?」





「うん」と返事をして早く乗るよう促すと

山ちゃんはゆっくり一歩一歩エレベーターの中に

入ってきて私の顔を見ている


 




山「・・・伊織さん…怒らないんですか?」




「・・・・・・・・」






山ちゃんが言っているのは…

さっき優君が女の子と楽しそうに話して

歩いていた姿の事を言っているんだろう…








山「まぁー会社の後輩とかなんでしょうけど…」






「・・・私ね…イマイチまだ優君と

  結婚するって…ピンとこないのよ…」





山「え??」





「なんか…実感がわかないし…

 想像ができなくてね…

  年下の男の子とただ会ってるだけみたいな…」





山「・・・確かに急でしたもんね…

  それに伊織さん年上の方が…好きですしね…」




 



そう…私はどちらかと言うと

包容力のある年上の男性の方が好きだった…






優君といると…

楽しくはあるけど疲れる事も多いし…

なんかコッチが

包容力を持っていなきゃ?みたいな…





あの時彼の手を掴んだのは私だし

後悔してるわけじゃないけど

彼の方がいずれ後悔するんじゃないかと

逆に心配をしている…





だから、さっきみたいに歳の近い女の子と

仲良く付き合う方が

いいんじゃないかと思っていた…





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