第28話

〈伊織視点〉









予約のお客様が帰っていき閉店作業をしながら

社長が真夢ちゃん達に指示していた事を

思い出してため息を吐いた…




( ついにそんな事まで… )




ショット回数を減らすという事はお客様に

本来当てるべき脱毛の光がちゃんと体全体に

届かず効果に大きく差が出てしまうのだ…





後輩達のリピーター様の中に

「中々効果がでない」という口コミがあったが

恐らくそうゆう事だったんだろう…





もしくは、契約を延長する為に照射レベルを

1番弱くしていたかだが…




( どちらにせよ最低だ…)





気づかなかった私の責任でもあるし

山下の言う通り早く潰れてしまった方が

お客様達の為にもなるだろう…




三村さんも…

出来たら本来のアドバイスがしたい…




気が重く閉店作業もいつもの

倍以上時間がかかりお店の鍵を閉めてから

カツン…かツンとヒールをわざと鳴らして

エレベーターへ向かって歩いた…




( 自分も…笑って辞めると思ってた…)




辞めていった先輩達を思い出しながら

今の傾いたお店の現状を考えて

社長の言う通り店長としての技量がなかった

私のせいなのかもしれないと思った…




エレベーターが一階について「はぁ…」と

息を吐いてから歩き出し、今から電車に乗って

駅からマンションまで歩いて帰るのが面倒に感じた




(・・・・・・・)




踵を返して駅とは反対方向に歩き出して

大通りのバス停に向かった…

定期があるから電車で帰らないともったいないが

バスならマンションの近くの停留所もあるし

何より混雑した電車よりも気持ち空いている

バスにただ揺られたくなったから…




バス停について時刻表を確認すると

15分後には次のバスが来るようだったから

空いてるベンチに腰を降ろした…





ベンチに座ったままぼーっとしていると

鞄の中からスマホの通知音が聞こえてきて

午後からスマホを見ていなかった事を思い出し

鞄から取り出して通知を確認すると

優君から3件のメッセージが届いていた





( 3件?? )





何か緊急事かと思い開いてみると…



一件目は向こうも残業になったから時間が

合うのなら一緒に帰ろうと…



二件目は私の退勤時間に一階の

ファーストフード店で待っていると…



三件目は・・・




顔を上げて周りを見渡すと

私の少し離れた場所にスマホを持って

立っている彼の姿が見えた…




三件目は一人になりたいかと届いていた…





きっと既読にもならないメッセージに不安を

感じてわざと読まないのか試したんだろ…





「・・・・・・・」





なんとなく「はぁー」とため息を吐いてから

立ち上がり彼の元に歩いて行くと

彼は少しだけ不機嫌気味な顔をして私を見ている…





正直今日は誰とも話したり

気をつかったりしたくない気分だった…

一人で色々と考えたかったから





「面倒くさい子だよね…」





だから…正直に彼の目を見てそう呟いて

スマホを持っていない方の手を軽く握った…




彼は私が繋いだ手に目線を落としてから

ギュッと強く握り返してきて

再度私の方に目線を戻すと





ユウ「ソッチこそ、だいぶ面倒くせー女だよ」





と鼻で笑って言った…

二人で並んでバスに揺られて帰りながら

愛のないお見合い相手とこんな風に

バスの中で手を繋いで帰っている自分に

また違和感を感じたけれど…




優君の顔を見たら(まっ…いいか…)

と思って彼の肩にもたれかかって甘えてみた…






( きっとこんなお見合いもあるんだろう… )







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る