第17話

〈優視点〉







初めて伊織を知ったのは25の時だった

休みの日の夜に特にすることもなく

食材の買い出しに出たついでに

スーパーの2階に入ってるいる

レンタルショップに立ち寄り

久しぶりに見たくなった

カーアクションの映画を探していたら

目当ての棚の前に一人の女が立っていた





(・・・直ぐに退くだろう…)





そう思ってその棚の直ぐ後ろにある棚を

興味もなくただ眺めていたが…





(・・・・長くね?)





その女はずっとDVDの裏面のストーリー説明を

読んでいるようで中々どくことはなく

内心(チッ)と舌打ちをしながら自分の目当ての

映画を少し後ろから探すとその女の目の前にあり

女が手に握っているのは

そのシリーズのケースだった…





( まじかよ…)





俺が借りたかったのは学生時代に見た

第5作品目の映画で目を細めて見ると

女は手に持ってなく「すみません」とでも言って

取ろうかと悩んでいると女は手にしているケースを

置く事なく俺の取ろうとしたケースを

手に取ってまた裏面を読み出した…





(・・・・・・・・)





諦めて帰ろうかと思っていると

女がコッチを気にして顔を少しずらして

見ている事に気づき(見過ぎたか)

と少し焦って顔を後ろの棚に戻して

興味もないラブストーリーの映画のケースを

手に取って裏面を読んでるフリをしていて

何故コッチを見ているのかを気づいた…





この女の後ろの棚に立ってから

軽く15分は経っている…



つまり俺は15分間もラブストーリーの棚の前で

必死に借りる映画を物色しているように

見えているんだと分かり妙に辱めでも

受けた気分になって手に持っていた

ケースを棚に戻してから

その場から直ぐに立ち去った





(なんで俺がそんな目で見られるんだよ…)





と少し苛立ちながら先に買い物をしようと

1階のスーパーへ行き籠の中に晩酌用のビールを

数本入れてからツマミになる物を探した




買い物を済ませてスマホで時間を確認し

あれから更に15分は経っているから

もうさすがにいないだろうと

思いさっきの棚を目指して歩いていくと





(・・・あの女…全シリーズ借りたのか…)





目当ての第5巻が無くても

気分はもうあの映画になっていたから

残ってる巻を借りればいいと

思っていただけに少し落胆した…






一週間が経ちまたあのレンタルショップへ向かい

もう返却しているだろうと思いながら

目当ての棚へ真っ直ぐ歩いていき

空のケースが並んでいるのを見て

まだ返してないのかとまた舌打ちが出た…






別にそこまで…

どうしても見たかったわけでもないが

先週借りようと思っていた所にあの女が現れて

全巻借りられた事によって

軽くムキになっている面もある…





ユウ「はぁー・・・・」





ため息を吐いてまた1階のスーパーに向かい

籠を持ち水や朝食に食べるパンを買おうと

店内を歩いていると、あの女を見つけた…





女は顎に手を当てて

また何かを悩んでいるようだった…





(決断力のない女だな…)





と先週の事もあり、また悩んでるのかと後ろを

歩きながら女が手に持っている物を覗いた





(・・・・・豚肉?)





女は手に持っている豚バラ肉のパックと

自分の籠の中に既に入っている刺身のパックを

何度も見比べては「ウーン」と悩む声を出していた




しばらくすると「はぁー」とため息を吐いて

豚バラのパックを籠に入れ

トボトボと魚コーナーに歩いていき

籠から刺身のパックを取り出して

またタメ息を吐きながら売場に戻していた




女が売り場に戻した刺身のパックを見て

俺はなんとなく手に取り籠の中に入れた





( 先週とは逆だな… )





そんな事を考えながらフッと笑いが出て

女が返したDVDを俺も全シリーズ借りて帰った




家に帰ると直ぐにシャワーを浴びてから

冷蔵庫の中の冷えた缶ビールと女が置いた刺身を

取り出してテーブルに持っていきDVDを再生した







(・・あの女はコレを見ながら何を食べたんだ?)





映画を見ながら刺身を食べていると

ふと、あの女の事を思い出した…





それからも、あの女をレンタルショップや

スーパー、ドラッグストアで見かける事が

多くなり近所に住んでいるんだろうと思った…





それから一年近く経ち

俺は店に入ると必ず店内を見渡して

女を探すようになっていた

一度も話したことも無い

名前も知らない、多分年上のその女を…





まさか直ぐに結婚前提で

付き合いだす事になるなんて思いもせずに…






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