第14話

〈伊織視点〉








「・・・別に私が好きなわけじゃないんでしょ?」





ユウ「・・・・・なんて言ってほしい?笑」





「・・・・正直に言ってよ…」





ユウ「好きか嫌いで答えたら〝好き〟なんだろうが

  本当に好きかと聞かれたら分からねーな…」





「・・・・・・・」






それはそうだろうと思った…

私達は身体の関係を持ったけれどお互いの事なんて

何にも知らないんだから〝好き〟だと思うことの

方がどうかしている…






ユウ「よく見かけるお前を気になっていたのは

  事実で珈琲屋でぶつかって来た時は

  驚いたが機嫌悪かったしな?」





「初対面であんな事言われて仲良くなるとでも?」





ユウ「・・・カラオケ屋で事実をそのまま伝えたら

  キレて帰っていくしな??」





「・・・全然好意ありそうに見えないんだけど…」






ユウ「だけど、立ち飲み屋で会って

  やっぱり気になってお前の事を知ろうとしても

  結婚する気のある男以外は相手にしねーし

 

  だから、俺の条件も満たせられたら

  結婚もありだと思ったからここに来た…」





「・・・・・・・・」






ユウ「・・・とりあえず、来月あたりから同棲して

  来年には式あげるか?」





「・・・・へっ?」






ユウ「俺の会社は結構うるせーから

  式はちゃんと上げてもらうし、式の準備は

  俺は忙しいからお前が一人で準備する事になる


  だから早めに仕事辞めて

  取り掛かってくれたら助かるしな…

  直ぐにでも辞めていいぞ…仕事?」






「・・ほっ・・本気なの?」






彼は目を逸らす事なく真っ直ぐに

私の目を見て話してくれる…






ユウ「俺は大恋愛みてーなのは苦手だし

  歯の浮くような台詞も言えねぇ…


  一緒に住んでお互いを知りながら

  来年には式挙げて周りから夫婦と呼ばれて

  子供が産まれた時には…

  俺らもちゃんと家族になってる…

  そんな未来で…俺はいいと思ってる」






「・・・・・・・・」






ユウ「お伽話みてーな未来はやれねーが

  今話した未来でよければ…

  俺がお前にくれてやる


  ・・・・・掴んでみるか?」






そう言って私の前に

自分の左手を差し出してきた…






「・・・・・・・・」






元々…お見合いで出会う相手にドラマみたいな

ラブストーリーなんて期待していなかった…

安定した仕事と収入があって

よっぽど性格が合わないとかじゃなければ…

誰でもよかった…





でも、きっとあの会場の中の人達よりも

彼の差し出す未来の方が一番分かりやすくて

確実なような気がした…






彼は私の貯金残高に対して何も言わずに

仕事を直ぐにでも辞めていいという事は

おそらく山下から何か聞いているんだろう…






女「あっ!もう直ぐ時間になりますので

  お声掛けに来ました」






喫茶店の入り口からさっきのスタッフが

入って来て私に声をかけてきた…







「・・・・・・・」




ユウ「・・・・・・・」






彼は何も言わないまま手を差し出していて

私の顔をずっと…見ている…


 



女「・・・・あの…?」






席を立たない私を不思議に思い問いかけてくる

スタッフの顔を見ながらニッコリと笑って







「もう…相手は見つかったので大丈夫です」






そう言って

差し出されていた優君の左手を

私の左手でギュッと掴んだ…






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