第10話

〈伊織視点〉






年下の彼に腕を引かれながら

何処に向かっているのかは何となく分かっていた…





あの飯男の時みたいにまた〝特別な女性〟として

扱われない自分に少しチクリとしたが

今は誰かと、都合よくでもいいから肌を重ねたいと

思ってしまっていたから…

彼がホテルに向かっている事を知っていながら

腕を振り払わないでそのまま着いて行った…





彼との情事は若くて…

本当に年下の、20代半ばの相手とそうしているん

だと妙に思い知らされた時間だった…





ユウ「なんか飲むか?」





とベッドから起き上がって

冷蔵庫を開ける彼とは違い

意識はあっても身体が思うように動いてくれずに

ベッドに横になっているままの私…





(3歳差ってこうも違うわけ…?)





2ヵ月前に別れた同い年の彼氏とも違うその行為に

28歳の私はついていくのがやっとだった…





ユウ「酒は・・・今は無理そうだな?笑」





「・・・・・・・・・」





楽しそうな声が聞こえてきて

ここから先どう顔を向かい合わせて

どう帰ろうかと考えていると…




プシュッとビールか酎ハイの缶を

開ける音が聞こえて彼がまだお酒を飲めるほどに

余裕があるんだと理解した…




伸びた私の右の指先にヒヤっと冷たい感触がして

彼が冷たい飲み物を差し出しているのが分かり

身体はそのままで指だけ動かして彼から

ペットボトルを受け取った





ユウ「ふっ…体力つけろよ…笑」





そう言ってギシッとベッドのきしむ音で彼が

ベッドに入って来たんだと分かり

ゆっくりと身体を起こして手に握られた

ペットボトルがお水だと確認してから

フタを開けて口に含んだ






ユウ「それで?仕事の何が嫌なわけ?」





「・・・・・・別に…」





ユウ「ついさっきまでは素直だったくせに…笑」





「・・・・・・・」






こうゆう事を口にするデリカシーの無さも

年下って感じがした…





「別に…ただもう、そろそろ

  年齢的に潮時だって…ただそれだけの事よ…」





ユウ「・・・あんまり素直じゃねー女は

  嫁には貰えねーぞ?」





ペットボトルの水を飲みながら「ふっ」と

笑いが出てきて思わず溢しそうになった…





「・・・30歳以下と付き合う気はないの!笑」





ユウ「・・・・30歳以上がいい理由ってなに?」





(・・・結婚に関する考え方の違いよ…)







「・・シャワーは?先に浴びる?」





ユウ「・・・・・・・・」





「浴びないなら先に私が浴びるわね?」






そう言ってベッドから出ようとすると

彼に腕を掴まれて「何?」と顔を向けた






ユウ「帰る気か?」





「・・私…こうゆうホテルに泊まるの…嫌なのよ」






これは本当だった…

雰囲気といい…やる事だけした後のベッドに

寝るなんて無理だし今日は自分の部屋の

ベッドの上でゆっくり寝たかったから…





ユウ「・・・・・・」





彼は何も言わずに手を離してくれたから

そのまま床に落ちていた自分の服を握ってから

シャワールームに歩いて行った





シャワーを浴びて自分の洋服に着替えてから

彼のいる部屋に戻ると彼は洋服に着替えていて

ベッドの端に腰掛けていた





「あれ?浴びないで帰るの?」






ユウ「・・・・前に俺が渡した番号はどうした?」






「・・・・・・・・」






ユウ「・・・・番号教えろ」






そう言ってスマホをポケットから取り出し

私が答えるのを待っているようだ…






「・・・・私ね…結婚したいのよ…

  次付き合う人…30歳以上の人と

  結婚を前提にしてちゃんと付き合いたいから

  遊びで付き合ったり、都合のいい身体だけの

  関係の男の子は…必要ないのよ…」






ユウ「・・・・・俺が26歳だからか?」






「・・・・今日は…正直助かった…

 色々あって誰かに埋めてもらいたかったから…」






ユウ「・・・・・・・・」






「・・・・出よう」






ホテルから出てすぐ近くに止まっていた

タクシーに乗り彼とはそこで別れて

真っ直ぐ自分のマンションに帰って行った…





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