第5話

〈伊織視点〉







「・・・・・・」





シャワーを浴びてメイクをするが

ほとんど一睡もしてないからファンデのノリが

イマイチな事にもイライラしてしまう





〈お前の方が失礼だろ?〉





あの失礼男の台詞を思い出して

メイク道具をポーチから出し入れする動作も

なんだかガチャガチャと乱暴になっていく





「・・はぁー…あんな事言われて眠れないわよ…」





スマホを手に取り昔の飯男に「今日あえる?」と

メッセージを送ってからメイクを続けた



誰でもいいからデートがしたくなった

無性に〝女性〟として扱われたくなったから…





どこかやるせない気分でダラダラと

出勤準備をしながらいつもの電車

いつもの車両に乗り見慣れた風景なのに

電車の混み具合や

目の前の女性のヒールの音にすらイライラして

自分の顔が険しくなっていくのが分かる




(私の人生、今の楽しみってなんだろ…)





仕事も微妙でお金は無くなるし

恋愛も微妙、行く先々では

あの失礼男に散々の言われようで…




「・・・良い事なんで一つもないじゃん…」





数年前、地元に帰省した時に

結婚をしてママになった友人に会ったが

髪はカラーも色が抜けていて

手だって荒れて指の端にササクレが出来ていて

洋服は襟元が伸びていて…


(大変そうだな…)なんて思っていたけど…

今は素直に羨ましいと思う…

結婚できる相手を見つけて一緒に住んで

妊娠して出産して…幸せな家庭を築いて…




自分の綺麗に手入れされた爪を見て

何だか虚しさがより一層増した…




お店に着くと山下はもう出勤していて

私を見ると「二日酔いですか?」と

心配して近付いてきた





「帰って早めに寝たから大丈夫だよ!

  昨日はごめんね?急に…」





山「いえ、社長のパワハラで疲れてたんですよ!

  あっ!あとコレ、優さんから預かりました」





「ゆう…さん?」





山「先輩の横にいたじゃないですかー!

  〈こうゆう所は男が出すものだ〉だそうです」





「・・・・・・・・・」





山下の差し出した手には昨日失礼男に渡した

一万円が握られていて誰のことか直ぐに分かった…

お金と一緒に何かが折り曲げられている事に

気づいて広げるとポロッと小さな紙切れが落ちた




(何これ)と拾い上げてみると

携帯番号が書かれていた…






山「え??優さんのですよね?」





「・・・・・・・」






私はそのまま

その紙をシュレッダーにかけた…



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