第11話

 裁判が閉廷して、職場を退職した辺りから、若佐先生が仕事で深夜に帰宅する日や外泊する日が増えてしまった。休日も朝早くから出掛けており、自宅に帰宅しないで、そのまま職場に行ってしまう日もあった。

 スマートフォンのメッセージにも簡単に送ったが、既読になっても、返信は全く無かった。

 それから、若佐先生と会わない日が、数日、数週間、数か月と続き、これまで以上にすれ違う様になったのだった。


 後から知ったが、若佐先生が労働関係の裁判を担当したのは今回が始めてだったらしい。

 どうして知ったかというと、仕事を辞めた後、若佐先生が仕事に行っている間に掃除をしようと、若佐先生の部屋に入った時、真新しい労働基準法に関する本や、労働基準法を扱った裁判記録が部屋の机に山積みになっていたのを見つけたからであった。

 それに対して、部屋の本棚に入っていた法律関係の本や交通事故に関する裁判をまとめたファイルには、何度も読んだのか読み癖がついており、何枚もの付箋がついていた。その本の中に、労基法に関するものは一冊もなかった。


(どうして、若佐先生は私の裁判を引き受けてくれたんだろう)


 もしかしたら、これまで労働問題に関する裁判を担当した事が無かったのかもしれない。それなのにどうして裁判を引き受けてくれたのだろう。他の弁護士に頼む事だって、きっと出来ただろうに……。

 聞きたいと思いつつもそれも聞けないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

 そして若佐先生と出会って一年になろうとしたある日、唐突に若佐先生からメッセージが、スマートフォンに送られてきたのだった。


『話したい事があります。今日の夕方、外で会えませんか?』

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