第9話

 それからも、若佐先生は裁判や結婚の用意で私が住む県に来る度に連絡をしてくれた。予定が合えば会おうと思ったが、なかなかお互いの予定が合わず、会えたのが、私の両親に正式に挨拶に来た時と婚姻届を記入した時――提出は若佐先生が一人で行った。の二回だけだった。

 両親は最初に会った時の好印象が良かったのか、あっさり若佐先生との結婚を許し、更には私の仕事を理由に、しばらくは籍だけ入れて、私は実家に住み続けて別居するつもりだったのを、すぐに私が仕事を辞めて、夫婦らしく同居するように勧めてきたのだった。

 その頃には私が会社と上司を提訴した話が職場内に広まった事で、なんとなく今の職場に居づらくなっていた。また裁判の話と度重なる上司とのトラブルを聞いた本社から、他県の店舗に異動を勧められていた事もあり、若佐先生が住む隣県に引っ越そうか悩んでいた。

 異動を提案された時に、若佐先生が住む県にも店舗がある事を教えてもらっていたが、一人暮らしをするにはお金がなかったので、どうしようかと悩んでいるところだった。

 その話を若佐先生に話したところ、若佐先生からも「一緒に住みますか?」と提案されたのだった。

 最初こそ迷ったが、若佐先生が結婚後も私が仕事を続ける事を後押ししてくれたのと、「やはり夫婦なのに別居するのもどうかと……」と言った事で、私は若佐先生の言葉に甘えて、同居を決めたのだった。


 そして、雪が解けた三月末。

 私は若佐先生が住む他県の店舗に異動が決まると、若佐先生と同居を始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る