第24話:これドッキリじゃないですよね?
結論から言うと、クーラの作った夕食はそれなりに不味かった。
ごく普通の野菜炒めだったのだが、塩加減は適当すぎるし野菜に火は通っていないのに肉に火は通しすぎという何をどうしたらそうなるのかわからない状態になっていた。
得意満面のドヤ顔をしているこいつにそれを伝えるのは酷だと思ったので、とりあえず食事を作るのは今後俺がやることにする、とだけ言っておいたが。
「そういえば貴様は明日も休みなのか?」
「そうだが」
「明後日は?」
「仕事だ」
「……休み、少なくないか?」
ソファでおっさんみたいに寝転がるクーラが首をかしげる。
「5日働いて2日休む。色んな勤務形態の奴がいるが、これができるのはどちらかと言えば恵まれてる方だと俺は思っている」
「我なら下僕に7日働かせて7日休むがな」
「お前はもっと働け」
「貴様も下僕を作れば良いではないか。そして貴様に貢がせ、その貢がれた金を我に貢ぐのだ」
「そこに対価が生じれば健全な形なんだけどな」
果たして俺はクーラに何を貰っているのだろうか。
……眷属としてのちょっと人より優れた機能?
多少寝なくても大丈夫で、ちょっと力が強くなってるっぽいくらいか。
うーむ、釣り合っていないような気がしないでもないが、しかし人によっては喉から手が出るほど欲しいものなのかもしれない。
健康っていうのはある内はその大事さに気付かないと言うしな。
元々風邪なんかをあまりひかない体質なので、それについてはそこまで実感することがないのだが。
「冗談はともかく、5日働いて2日休みは釣り合いが取れていないだろう。4日働いて3日休むのならまだしも」
「釣り合いってなんだよ」
「7日あるうちの5日も働いてたら頭がおかしくなるぞ?」
そうだとしたら日本という国は頭のおかしな奴で溢れかえることになると思うのだが。
2日の休みが少ないなあと思うことが無いとは言わないが、それで世の中回っているのだから仕方がない。
「そもそも5日の疲れがなんで2日足らずで取れると思っているのだ。人間の体はそこまで丈夫ではないだろう。偉大なる我の眷属である貴様はともかく」
「5日みっちり働いてるわけじゃないからな。適度に休憩は取るし、家に帰ってきて休める。そうじゃない人も稀にいるみたいだが……」
「ふーん、勤勉だな。だからテレビなんてものを作れるようになるのか」
「随分気に入ったようだな、テレビ」
「貴様がいない間暇で仕方がないのだ。テレビを見るくらいしかやることがない」
……ふむ。
確かにそれもそうだな。
テレビも最初のうちは新鮮だろうが、そのうち飽きてくるだろう。
そして限界が来たクーラが勝手に外へ遊びに行ってしまうなんてこともありえるかもしれない。
それは困る。
非常に困る。
……いやまじで困るぞ。
何か対策を打たなければならない。
「クーラ、明日また出かけるぞ」
「ふむ? 明日か? 山田も来るのなら別に構わんが」
「なんで山田もなんだよ」
「貴様の案内だけでは不安だからだ」
こいつ……
いや、しかし確かに山田もいた方がいい案件かもしれない。
俺は最近の流行りについては全く知らないからな。
仕方ないので山田にLINEしてみる。
『明日暇か?』
数秒後、すぐに既読がついた。
だがなかなか返信が来ない。
しばらく待っていると、
『LINEつけっぱなしだったので気付きませんでした』
とのことだった。
つけっぱなしだったとしても既読にはならなくないか?
俺とのトーク画面が開きっぱなしになってないとそうはならないだろうし、そもそも送ってから数秒後に既読になっているので自分でLINEの画面を開いたのは明白だ。
そういえば、最近の若い奴はすぐにLINEを返さなければいけないという強迫観念のようなものに囚われているという。
それですぐに返せなかったことを言い訳しようとしているのだろう。
俺としては別にすぐに返ってこなくても構わないと考えているので、そこは突っ込まずにいてやるのが吉か。
『そうか。で、明日暇か?』
『暇ですけど、もしかしてデートのお誘いですか?』
『あ、やっぱ今の無しで』
『なんでもやいです』
『ないです』
あいつ文字打つの早いな。
誤字ってるけど。
『クーラの暇つぶしグッズを買いに行きたい』
『俺のセンスじゃ心配だからもしよければ手伝ってほしい』
『クーラの奴もお前が来ないと出かけないと言ってるしな』
『今度飯くらいなら奢る』
『行きます』
『明日の何時ですか?』
『いつでも構わないが、翌日が月曜日なのを考えると早めがいいな』
『じゃあ今日と同じ時間に行きます!』
『それじゃそういう手筈で』
『あの、これドッキリじゃないですよね?』
『なんで俺がお前にドッキリをしかけるんだ』
『ですよねー笑』
『じゃ明日行きますんで、よろしくお願いします!』
『よろしくお願いするのはこっちだが』
『じゃ、また明日』
『はい!』
いやあいつ、本当に打つの早いな。
「山田来てくれるってよ」
「うむ、奴も名誉眷属にしてやろう」
クーラは満足げに頷くのだった。
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