第23話:我を誰だと思っている!

「……便利なもんだな」


 結局。

 本日の家事を代わりにやるということで(夕食作りや風呂掃除、ついでにトイレ掃除など)血は吸わせてやるということになった。


 三日連続で襲われるなんて冗談で言ったが、本当にそうなっても良くないからだ。

 

 それで現在は風呂掃除をしているところを後ろから眺めているのだが――


「ふふん、我にかかればこんなものなのだ!」


 クーラは水魔法とやらで水を高圧洗浄機みたいに出して洗っていた。

 洗剤をスポンジにつけてごしごしやるよりもよほど綺麗になりそうである。

 シャンプーなどが置いてあるところはどうするのかと思っていたら、水の方から(?)器用に避けていた。


 なんというか、水が生き物みたいに動いて当たると面倒なところは避けているのだ。

 どういう理屈でこうなっているのだろうか。

 こいつ、研究者あたりに目を付けられたりしたら大変な目に遭うんじゃなかろうか。


「これだけできるなら毎日風呂掃除くらいやってくれてもいいんだけどな」

「高貴なる我に家事をさせようと言うのか? 我だぞ?」


 なんだ我だぞ? って。

 家事を手伝えと言われることがよほど意外なことらしい。

 貴族かお前は。


「お前がこれからも家事を手伝うというのなら晩だけでなく朝も血を吸わせてやるぞ」

「な、なんだと……!?」


 紅い目を見開いて動揺するクーラ。

 

「晩だけでなく朝まで……しかし我は働きたくない……働いたら負けなのだ……!」

「ニートかお前は」


 実際、状況は似たようなものなのだが。

 居候で金食い虫の穀潰し。

 吸血鬼様とやらが形無しである。


 浴槽と洗い場の高圧洗浄を終えたクーラが魔法で温風を吹かせて乾燥までさせている。

 働きたくないという割に手慣れてるな。

 魔法とはこうも思い通りに使えるものなのか。


「楽そうにやってるし掃除くらいしてくれてもいいんじゃないか?」

「……まあ、仕方がない。先の約束忘れるなよ、我が眷属」

「朝も吸わせてやるってやつか。会社もあるから程々にしてくれるなら別に構わないぞ」

「それは我の気分次第だ」

「……気分次第で互いに理性を失うようなところまで吸わないっていうんなら良いが……」


 それに加え、今は夜寝る前にしているからあまり気になっていないが、貧血症状が出るようならばこれもまた少し考えなければいけない案件だ。

 

「こんなもので良いだろう。さあ、次は夕食を作ってやるから楽しみに待っているのだ!」

「……一応聞いておくけど、お前料理とかできるのか? コンロの使い方とかは教えてやるけど……」

「我を誰だと思っている! クーラ=アルカオス=ベルネット様だぞ! 期待して待っているが良い!」


 知ってるよ。

 知ってるから不安なんだよ。

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