第22話:ぐぬぬぬぬぬ……

「はあ、疲れた……」


 どっさりと服の入った紙袋をリビングに置く。

 結構重いぞこれ。

 何故俺よりも力があるはずのクーラが手ぶらで、非力な俺が重い荷物を持たなければいけないのか。

 考えてみれば不条理な話である。


「うむ、ご苦労だった」

「ご苦労だったじゃねえよ」

「ひゃんっ!?」


 胸を張るクーラの脳天にチョップを食らわせる。

 本当はグーで頭に行きたいところなのだが、流石にそれはやめておいた。

 児童虐待の絵面だ。


「な、何をする!」

「今回は山田があの性格だったからなんとかなったが、もし別の人間だったりしたら下手すりゃ俺は捕まってたからな。それなりの制裁を加える必要がある」

「せ、制裁だと?」

「ああ、制裁だ。キツイやつをな」

「……こ、この変態め! 山田がいなくなった途端にそれか! けだもの! スケベ!」


 何言ってるんだこいつ。

 

「お前は頭の中がピンク一色なのか?」

「え……男が女に加える制裁などそういうのしかないだろう?」


 どんな知識の偏り方だよ。

 もっと健全な書物を読め。

 

「今日は吸血なしだ」

「な、なんだと!?」


 この世の終わりを見たみたいな顔でその場に崩れ落ちるクーラ。

 そんな絶望的なことなのか。


「猫に変身させた挙げ句、昼間に外を連れ回して挙句の果てに血を吸わせないとは……貴様は鬼だ! 吸血鬼より鬼だ!」

「昼間連れ回す云々はお前もそれなりに楽しんでただろ」

「む……まあそれは否定はせんが」


 だろうな。

 普通に楽しそうにしてたし。

 お陰で今日だけで二桁万円使ってるからな。


 別に家のローン以外に使い道ないようなものなのでいいっちゃいいのだが。

 

「じゃあ今日は血を我慢できるな」

「できない」

「なんでだよ」

「夜中に腹が減ると貴様を襲うかもしれんぞ」

「…………」


 それは困るな。

 結局血も精も持ってかれて俺だけが損しているようなものじゃないか。

 

「それでもいいなら血を吸わないでおいてやろう」

「なんでお前が決める側なんだ」

「しかし襲う襲わないは実質我に決定権があるからな! フーハハハハハ! わかったら大人しく血を差し出すのだ!」

「なるほど、そうか、よくわかった」

「ふふん!」

「お前が三日も連続で俺の寝込みを襲うような変態吸血鬼だってことがな。いいさ、襲いたいなら襲えばいい。どうせ俺には記憶が残っちゃいないんだろうし、好きなように楽しめばいいさ」

「……へ?」


 クーラはきょとんとした表情を浮かべる。


「襲いたいんだろ? なら好きにすればいい。別に怒ったりしないし拒絶したりもしない。ただそういうことだと俺が認識するだけだ」

「き、貴様その言い方はずるいぞ!!」

「どうするもお前の自由だと言っているだけだが」

「ぐぬぬぬぬぬ……」


 激しく歯ぎしりするクーラを見て、溜息をつく。

 これで翌朝本当に襲われてたらもはや笑えるけどな。


 

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