第21話:夢が一気に2つ叶っちゃいましたよー

「…………」

「クーラちゃん、これなんてどうですか?」

「我は白はあまり好かんのだが……」

「…………」

「絶対似合いますって! ほら、これとこれも!」

「さっきから我ばかり言っておるが貴様は試着しないのか、山田」

「…………」

「私はこういう可愛らしいのを着るのはちょっと自信がないですねー。こういうのって可愛い子が着るから可愛いんですよ」

「貴様もそう悪くはないと思うがな。我の次くらいに、だが」

「…………」


 滅茶苦茶目立ってる……

 ここは車を20分ほど走らせた場所にあるイオンモールである。

 ただでさえ山田一人でも人目を惹く容姿だというのに、それにクーラまで加わればこうなる。

 近くに冴えないおっさんを添えれば更に注目度は倍だ。


 さっきからあのおっさんなんなの? って感じの視線が痛い。

 帰りたい。

 こいつら置いて帰りたい。


「なあ、山田」

「なんですか先輩」

そいつクーラは自分で服が作れるから、わざわざ買う必要はなくないか? おい、何故露骨に残念なものを見る目をする」

「はあ……まったく、先輩はそんなんだから先輩なんです」


 こいつもしかして先輩って単語を侮辱の言葉として使ったか?


「いいですか、私は自分で料理を作れますけど、外食もします。つまりそういうことです」

「……手間や作る時間、費用について言っているんだったらその例には当てはまらないんじゃないか?」

「まったく、やっぱり先輩ってほんと先輩って感じですよね。ねえクーラちゃん」

「うむ、我が下僕の性質はここ数日で大体わかってきた。ソレはそういう生き物だ、山田」

 

 山田とクーラが俺の悪口(?)で盛り上がっている。

 仲良くするのは良いことなのかもしれないが、共通の敵を見つけて攻撃してくるのはやめて欲しい。

 俺間違ってること言ってるかなあ。

 買うより作る方が安上がりだし(というかコストは魔力なので金はかからない)早いし(魔力で服を作るのは一瞬だ)クオリティにも差が出ない(コピーしているわけなので当然)だろう。


 結局10着ほど試着したクーラは金を出す俺に有無を言わさず全て購入することを決め、ついでなので山田が欲しそうにしていた服も買ってやった。


「え、ええっ!? 本当にいいんですか!? 先輩、頭でも打ちました!?」

「口止め料も込みみたいなものだ。クーラのことは他言無用だぞ」

「もちろん言いませんとも!」


 なんでこんなにテンション高いんだろう。

 そんなに欲しかったのか、その服。

 俺が普段着ている安いTシャツに比べれば倍くらいするが、女性の着る服としては別にそこまで高いものでもないように思える。


 これでよほどのことがない限りクーラのことを他言することはない……と思いたい。



 帰り道。

 ついでなので山田を家まで送っていってやる。

 日の下を歩くと消耗が激しいとか言って後部座席でぐーすか眠っているクーラをルームミラーで確認する。

 これで夜寝れなくなってうるさくされたりしなければ良いのだが。


「いやー、今日は夢が一気に2つ叶っちゃいましたよー。いや、3つかな?」

 

 助手席に乗る山田は怖いくらい笑顔だ。


「2つ?」

「えへへ、どっちも先輩には内緒ですけどね」

「そうか」


 流石にそういう風に言われるとちょっと気になるが……


「猫のクーラちゃんが吸血鬼のクーラちゃんになった時は驚きましたけどね」

「重ね重ね言うが、絶対に他言するなよ。面倒なことになる」

「もちろん言いませんってばー。私のこと信用してくださいよ」

「信……用……?」

「あ、傷ついた! 私いますごく傷つきました!」

「オロナインでも塗っとけ」

「心の傷ですー。慰めてくださいよー」

「彼氏にでも慰めてもらえ」

「あははー、いませんよ彼氏なんて」


 へえ、いないのか。

 確かに男っ気はないような気もするが。


「意外だな」

「お、もしかして彼氏くらい簡単に作れるくらい可愛いのに意外だなって意味ですか?」

「ポジティブだなお前」


 まあ意味合いとしてはそう遠くはないのだが。

 引く手あまたというか、選り好みしてなお彼氏ができそうなほどのスペックはあるだろう。


「でも現実はそう甘くないんですよ。好きな人はいたりしなくもなくもなくなくないんですけどね」

「どっちだよ」

「でーもその人は全然振り向いてくれないんですよ。どうしたらいいと思います?」

「俺に聞かれてもなあ……」

「先輩恋愛経験値なさそうですもんね」

「否定はしないけどな」


 こいつには先輩を敬うという心とかないのだろうか。

 

「先輩だったらこんな女の子は好きだなーとかあります?」

「特に無いな」

「女なら誰でもいいぜ、げっへっへってタイプですか!?」

「なわけあるか」

「じゃあ好きな髪型とかー」

「そいつに似合ってたらなんでもいいんじゃないか」

「あ、今のはちょっと高ポイントな回答ですね」

「誰目線だよ」


 そんな感じの他愛のない会話をしていると、山田の家に到着した。

 普通の一軒家だ。

 確か実家ぐらしだと聞いた覚えがある。


 運転席の窓を開けて、門の前に立つ山田と軽く挨拶をする。


「ありがとうございましたー、先輩。今日はすっごく楽しかったです」

「そりゃ良かった。クーラもお前のこと気に入ってたみたいだしな」


 今はぐーすか寝ているが。


「それじゃまた月曜日」


 窓を閉めて車を発進させようとすると、「あ、ちょっと待ってください先輩」と呼び止められた。


「どうした」

「あのー……さっきその人に似合ってるならどんな髪型でもいいって言ってましたけど、私のはどうです?」


 明るいブラウンのショートヘア。

 いつもとは違い緩くウェーブがかかっている。


「良いんじゃないか」

「え、えへへ……そうですかっ。ではまた月曜日に会いましょっ、先輩!」

「月曜日って単語をそんなポジティブに言える奴に初めて会ったよ」


 窓を閉めて軽く手を振り、車を発進させる。


 サイドミラーで後ろを確認するとまだこちらに向かって手をぶんぶん振っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る