第18話:くろげわぎゅーでいいぞ
「わぁぁぁかわいぃぃいい~~~~!!」
猫になったクーラが山田に撫でくりまわされている……
今の所は俺の言いつけ通り猫の振りをしているのか、大人しく撫で回されているがそのうちキレて元の姿に戻ってしまわないか心配だ。
「本当に猫ちゃん飼ってたんですね~」
「あ、ああ」
山田の勘違いから始まったことであって、別に俺から猫を飼っているとは言っていないのだが。
しかし、猫扱いされているクーラの堪忍袋の緒がいつか切れてしまわないかこちらはハラハラしてそれどころじゃない。
「なんて名前なんですか?」
「な、名前か。クーラって言うんだ」
「クーラちゃんでちゅか~かわいいでちゅね~」
猫扱いどころか赤ちゃん扱いまでされ始める哀れなクーラ。
しかし我慢してくれ。
頼むから。
しばらく猫成分を堪能して満足したのか、落ちついた山田は自分の服を見て首を傾げていた。
「この子、全然抜け毛ないんですね?」
「えっ? あ、あー……そうだな、全然ないよな。不思議だよな」
実際は猫に変身しているだけであって本来は猫ではないのだから当然の話なのだが。
誇り高い吸血鬼にそこまで猫になりきれというのを期待するのも酷というものだろう。
「でも、珍しい猫ちゃんですね。先輩は最近この子を飼い始めたんですよね?」
「まあな」
「どう見ても子猫ちゃんじゃないのに、この家に慣れるの随分早くないですか?」
「か、賢いんだろうな。俺やお前が敵じゃないってすぐに察してるんだろ」
無理のある言い訳だろうかとも思ったが、別に山田は本気で疑っているわけでもないようで「ふーん」と頷いて納得していた。
全てのやり取りで緊張する……
「さて、先輩。お昼ごはんまだですよね?」
「え? ああ、まあ……まだだな」
だって10時過ぎだし。
休みの日は昼を食べないこともあるくらいだ。
「それじゃキッチン借りますね。食材は買ってきたので、先輩に手料理をごちそうしちゃいます!」
いや、そんなのいらないから帰ってくれ。
とは流石に俺でも言えなかった。
そこまでのノンデリでもないつもりである。
「き、気をつけろよ」
「大丈夫ですって~お料理は慣れてますし! 先輩こそ、料理してる私を見てうっかり惚れちゃわないように気をつけてくださいよ?」
「……なんで俺が料理しているお前を見て惚れるんだ……?」
「本気で不思議そうにしないでくれます!?」
山田が台所であれこれ動き始めるのをリビングから眺める。
手伝おうとしたら「邪魔なんで」と言われたのですごすごと退散してきたのだ。
ここ俺ん家だよな……?
猫の姿になったクーラが俺の近くへ寄ってきて小声で話す。
「おい、我はいつまでこの格好でいれば良いのだ」
「……わからん。山田が満足して帰るまでだろ。魔力は大丈夫なのか?」
「それは問題ないが……いい匂いだな……我はこれを食えないのだよな……」
「……今度美味いもん買ってくるから我慢しろ」
「くろげわぎゅーでいいぞ」
「…………」
テレビか何かで見やがったなこいつ。
仕方ない、痛い出費ではあるがバレない為だ。
「くれぐれも正体がバレないようにしてくれよ」
「我を誰だと思っておる。そのようなヘマを踏むはずがないだろう」
……不安だ。
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