第16話:変態だったのか?
「という訳で、明日俺の後輩が突撃してくる可能性が高い。その間は猫に化けててくれ」
スーパーのレジ袋を机の上に起きながらクーラにそう言いつける。
当のクーラはと言えば露骨にめんどくさそうに顔をしかめた。
「大きさを露骨に変える変身は魔力を大きく使うと言ったはずだが」
「そうも言ってられないだろ」
あと、二人分の弁当の残骸だのなんだのも片付けないといけない。
そんな些細なところでバレるわけにはいかないのだ。
ビニールで三重くらい封印してとりあえずベランダにでも出しておくか。
月曜日が燃えるゴミの日だから、週明けにそのままゴミ出ししてしまえば良い。
「そもそも何故我が貴様の指図を受けなければならんのだ。ここは我の家だというのに」
「俺の家だ。そしてお前は居候だ」
「家と言えば、その年齢で一軒家を持っているのは珍しい方のようだな、我が眷属よ」
「だろうな」
絶対にいないとは言わないが、俺の歳で
孤児院育ちだからか、自分の家というものに憧れがあった。
だから遮二無二働いてローンを組んで家を建てた。
それだけの話である。
お陰で燃え尽き症候群みたいになってしまったという側面もあるが。
「てか、露骨に話を逸らすな。魔力なら提供してやる。血を吸えばなんとかなるんだろ」
「…………」
俺がそう言うとクーラは頬を染めて俺を睨んだ。
ああ、大量の血を吸うと昨日の二の舞になると思っているのだろう。
「俺ももう若いわけじゃない。昨日の今日で暴走するってことはないだろ」
世間一般から見ると30はもうおっさんだ。
若いか若くないかで言うと意見は別れそうだが。
「貴様、我の眷属となって体がある程度若返っているのを忘れておるのか」
あー……
そういえばそうだった。
「例えば一時間……いや二時間くらい猫に変身している事になったとして、どれくらいの血の量が必要だ? 昨日俺が寝ている間に吸った血の量だったら何時間変身していられる?」
「……血の量だけで考えれば昨日吸ったので2時間だ」
顔を赤くしながらも答えるクーラ。
なるほど、本当にかなりコスパ悪いな。
血の量だけで、と言ったのは他の供給手段を除いてということだろう。
最低でも2時間ぐらいは確保したいが、しかしそうすると昨日の二の舞になってしまう可能性が高い。
なんなら俺も覚えていないくらいだから、自制が効くかも怪しい。
……仕方がない。
あまり取りたくはない手段だったが、例の方法を使うしかないか。
俺は立ち上がって寝室へ向かい、クローゼットを開けていくつかのシーツを取り出した。
四枚。
これだけあればなんとでもなるだろう。
俺はシーツを持ってリビングへ戻る。
「それで何をするつもりだ?」
「これは俺を縛る為のものだ」
「…………」
クーラはわかりやすくドン引きしている。
だからこの手段は嫌だったのだ。
「いいか、2時間変身できるだけの血を吸った後、これで俺を縛れ。そうすれば俺がお前を襲うという事態は防げるはずだ」
「……変態だったのか?」
「違うわ」
滅茶苦茶嫌だが、こうするのが最善だろう。
時間があれば寝室に鍵を付けるという手もあるのだが、今日明日でできるのはこれが限界である。
「それで上手くいくとは思えんが……我が眷属のその覚悟は汲んでやろう」
ということで、俺はこの後血を吸われた挙げ句縛り上げられることが確定したのだった。
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