第14話:い、言えるわけがないだろう!
朝起きたら上着が剥かれていて、隣には下着姿の女性(大人の姿のクーラ)が寝ている。
しかもどことなく体が気だるい。
まさかな。
いや、まさかとは思うが、一応確認しておかなければならない。
肩を掴んで揺さぶる。
無駄にでかい乳まで揺れている。
引っ叩きてえ。
「おい痴女、起きろ」
「んぅ……?」
いくらか乱暴に揺すってやるとようやくクーラは目を覚ました。
眠たげな紅い瞳が俺の姿を捉える。
「一体どういう状況だこれは。お前には説明責任があるぞ」
「んー……?」
体は起こしているのに再び目を瞑ってしまうクーラ。
放っておくとそのまま眠ってしまうだろう。
こいつ、日差しの下に放り出してやろうか。
それでも肌が日焼けする程度でほとんど意味ないんだっけ。
「起きろ」
「あいてっ」
ビシ、と綺麗なデコを人差し指で突いてやるとようやくそれでしっかりと目を覚ましたようで、
「……なんだ、我が眷属ではないか」
「そうだ、お前の眷属だ。なんでお前は眷属と一緒に寝てんだ」
「貴様が先に我のベッドで寝ていたからだろう」
俺のベッドなんだが。
いやまあ百歩譲ってそれは良いとしよう。
こいつなら俺を放り出してでもベッドを独占しかねないとは思っていたので、まだ放り出されなかっただけマシだと思えばいい。
「なんで俺は服を脱がされてるんだ」
「服を着たままでは血を吸いにくいからだが?」
そんなこともわからないのか? と小馬鹿にするような様子だ。
殴りたい。
グーで殴りたい。
「つまりお前は俺の寝込みを襲って血を吸ったってわけか」
「まあな。吸いすぎたので過剰な魔力を発散する為にこの姿になっていたのだ……ほっ」
次の瞬間、クーラは元の少女のような姿に戻っていた。
「……ようは俺が心配していたような間違いは起きていないってことか」
俺が確認するように問いかけると、クーラはさっと目を逸らした。
顔が真っ赤になっている。
真っ赤というかまっピンクになってる。
……え?
「おい待てお前。何もなかったんだよな? な?」
「我も知らなかったことなのだが、吸血鬼は眷属から魔力を摂取しすぎると錯乱というか……酩酊状態に近いような感じになるのだ。そしてそれは我が眷属である貴様も我と同じ状態に陥るようなのだが……昨夜のことは覚えていないのだな?」
「覚えてないもなにも、俺が寝ている間に血を吸った……んだよな? だから覚えてるはずないよな?」
「…………」
目を逸らすだけでは飽き足らずしまいには後ろを向いてしまったクーラ。
「クーラさん!?」
思わず敬語になってしまった。
まあ待て、落ち着け。
俺がなにかを勘違いしているだけの可能性もある。
俺は慌てて自分のナニを確認する。
形振り構っていられない。
……良かった。
使われた形跡は……なさそうだ。
それによく考えてみればシーツにだってそういう形跡は見当たらない。
いやでもちょっと乱れているような気はするが、汚れたり濡れたりはしていない。
なんだ、やっぱり俺の思い過ごしじゃないか。
いや待てよ。
なんで俺パンツなんだ?
ちゃんと下もジャージのズボン穿いてたよな?
「ふ、我の洗浄魔法は完璧だろう」
あれこれ確認する俺を見てクーラが得意げに言った。
「洗浄……魔法……?」
「うむ、簡単に言えば汚れを取り除く魔法だ」
「……それをどこに使ったんだ?」
「貴様の体と衣服、シーツ、そして我の体だな」
……もはや自白しているようなものなのでは。
いや、恐らく自分の手柄をまず自慢したいのだろう。
現に今更クーラは「しまった!」みたいな顔をしている。
遅えよ。
俺は天井を見上げた。
OK。
俺が裁判官ならこう言うだろう。
「最後に一つ質問だ、クーラ」
「なんだ」
「俺ももう大体察してる。だから正直に答えてくれ」
「良いだろう」
「お前、初めて出会った時に精を吸わせろ、と言いかけて血を吸わせろと言い直していたよな」
「そうだったか?」
「そうだ」
流石にまだ覚えている。
鮮明にな。
――さて、めでたく我の下僕もできたことだし、早速精を――血を吸わせてもらおうか!
なんてことを言っていた。
「その精ってのはなんだ」
「精気という精神エネルギーと肉体エネルギーの融合体みたいなものだ。主に人間の体液に含まれている。血が代表例だな」
なるほど。
「本当に血が代表例か? 血だけが代表例か?」
「ほ、本当だが?」
「正直に答えろよ」
「…………い、言えるわけがないだろう!」
「ぐはぁっ!?」
べしーん、とベッドから突き落とされた。
す、凄いパワーだ。
ギャグ漫画だったら壁にめり込んでいた。
まあ、クーラの反応からしてもう言わないでもわかっていることではあるのだが。
どうやら俺は血だけでなく、精も持っていかれたらしい。
……通りで朝起きてすぐなのに元気がないわけだ。
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