第11話:え、何もないの?

「そういえばお前、ドレスの洗濯とかしなくていいのか? いや、そういうドレスだとクリーニングに出すべきなのか?」


 こちらの文化を学ぶ為だと言ってテレビを見ているクーラに、ふと疑問に思ったことを投げかけてみる。

 高級そうなドレスをしわになるのも惜しまず適当にソファでくつろいでいるが気にしないのだろうか。

 というか下手すりゃ昨日のと同じのを着てるんじゃ……


「くりーにんぐ? そんなものは必要ない。新しく創れば良いのだから」

「新しく作るって……言っておくが、俺にはそんな技能はないぞ。ていうかどう考えても洗った方が効率的だろ」

「全く、うるさい奴だな我が眷属は。我を誰だと思っている。クーラ=アルカオス=ベルネット様だぞ」


 そう言って立ち上がったクーラは右手を無造作に横に突き出す。

 するとそこに黒いモヤモヤのようなものが生まれる。


「……は?」


 その黒いモヤはやがてはっきりとした形を象って行き一着の綺麗なドレスになった。

 

「……まさか今のは魔法……か?」

「まさかもとさかもない。魔法に決まっておるだろう」


 ふん、とクーラは薄い胸を張った。


「どうだ、これほど精巧な物質創造魔法を使えるのは我一人だけなのだぞ!」

 

 ドヤァ、と音が聞こえてきそうな程見事なドヤ顔をしている。

 犬だったら尻尾をぶんぶん振りながら「撫でれ」のアピールをしているところだろう。


「いや、これは普通に凄いな……」


 普段だったらそんなクーラを適当にあしらう俺なのだろうが、今回ばかりは素直に感心してしまった。

 

「えっ? う、うむ。凄いだろう! フーハハハハハハハ!! 生命体以外なら参考があればなんでも創れるぞ! 我が眷属よ、望みのものを言ってみるが良い! 血の代償としてなんでも創り出してやろう!! フハハハハハ!!」

 

 素直に褒められたクーラも一瞬戸惑っているが、案の定すぐに調子に乗り出した。


「いや……別に欲しいものはないんだけどな」

「……え、何もないの?」

「ああ、何もない」


 強いて言えば金だが、別に困っているわけでもない。

 今後こいつの生活費で困る可能性はあるが、少なくとも今は大丈夫だ。


「なんだ貴様、寂しい奴だな」

「ほっとけ」


 何年か前、会社の上司にも似たようなこと言われたな。

 ボーナスで何か買いたいものでもあるか? と聞かれて、「いや、特にないっすね」と言ったらそんな感じのことを言われた。

 仕方がないだろう。

 本当に特にないのだから。

 

「貴様趣味とかないのか?」

「……敢えて挙げるなら読書」

「如何にもぼっちが好きそうな趣味だな」

「全国の読書好きに謝れ。マジで」


 別にぼっちじゃなくたって読書が好きな人はたくさんいるだろう。

 俺がぼっちなのかどうかは置いといて。

 

「仕方がない、これからの貴様の趣味は我に血を提供することだと言って良いぞ」

「アホかお前は」


 吸血鬼に血をあげるのが趣味なんですよ~なんて言ってる奴いたら病院紹介するわ。

 

「ああ、そうだ。言葉は通じるのに何故か文字は読めんから、我が眷属よ。我に字を教えることを許可するぞ」

「ええ……」


 正直面倒くさい。

 知育玩具でも与えておこうかなと思ってしまうが、幾らチビとは言えそこまでの子供でない。あまり舐めたものを渡すと地団駄で以下略状態だ。


「フハハハハ、我に物を教えるなんて機会、なかなか無いぞ! 感謝するが良い!」


 どうだろう。

 これから結構頻繁にありそうな気もするが、とりあえず黙っておくことにした。

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