第8話:んあっ!?
そういや吸血鬼ってニンニクとか駄目なんだっけか。
ニンニク生姜焼き弁当を見ながらふと思い出す。
嫌がらせで買っていってやろうかとも一瞬思ったが、アレルギーレベルの拒絶反応が出るという話ならば洒落では済まないのでやめておく。
のり弁でいいや、のり弁で。
安いし。
なんと半額になると150円なのだ。
しかし今回は残業をしていないので半額になっていない。
全額弁当を二つお買い上げである。
300円が二つで600円也。
ちなみに税込みだ。
どうせならワンコインで変えるようになったら嬉しい。
なんて贅沢考えながらレジへと向かう――
「そうだ」
――途中で。
ふと思い立って、トマトジュースもついでに購入することにした。
血に似てるし代わりになるかもしれない、なんて甘い考えである。
レジにいるおばちゃんはいつも半額になった弁当を一つとビールくらいしか買っていかないくたびれたおっさんが何故か半額にもなっていない弁当を二つも買ったことと、普段絶対に買わないトマトジュースを買っていることに何を思っているのだろうか。
いや、別になんとも思ってねえな。
俺の方はこのおばちゃんの顔を覚えてしまっているが、相手は一日に何十、何百と相手する客の一人である。
別に覚えちゃいないだろう。
フィットの助手席にぽいとレジ袋を投げ入れ、家へ向かって発進させる。
そういやもうすぐ車検だな。
家へ帰ってきて、鍵を開けて中へ入る。
リビングの電気がついているようだ。
テレビの音もかすかに聞こえる。
クーラはどうやら報道番組を見ているらしい。
どこそこで事故が起きただとか、芸能人のほにゃららが不祥事を起こしただとかそんな内容だ。
食い入るように見ているので声をかけるのもはばかられた。
ていうかこいつ、黙ってればとんでもない美少女なんだよな。
いや、1014歳が少女と呼ぶに相応しいかはとりあえず置いといて。
サラサラの長い銀髪に、お高い工芸品みたいに文句のつけようのない程整った容姿。
着ている黒いドレスはどこか高貴さを醸し出している。
真紅の瞳はまるでルビーのような輝きを放っている。
ルビーの本物見たことないけど。
というか実物の宝石なんざまじまじと見た記憶がない。
どんなんなんだろうな、ルビーって。
ガサッと音を立ててレジ袋を机に置くと、そのタイミングでようやくクーラは俺に気付いたようだ。
「んあっ!? なんだ、帰ってきていたのか貴様」
んあっ!? って言ったぞ今。
夜の王の威厳はどこへやら。
「異世界では敵まみれだったんじゃないのか。もっと警戒心を持てよ、警戒心を」
家猫くらいぐだぐだじゃねえか。
「何故だ? 我の眷属なのだから敵ではないだろう?」
「そりゃそうなんだが……そんなにテレビ面白いか?」
「まあな。お陰でこちらの世界の人間の暮らしがどんなものなのか大体わかったぞ」
「へえ、そりゃ重畳」
まさか丸っと一日テレビにかじりついていたのか。
まあそうでもしてりゃ確かにある程度はこの世界のことがわかってくるだろうな。
「この世界は平和だと思っていたが、案外悪い奴もちらほらいるのだな。物を盗んだり人を殺したり」
「まあ、日本だけでも1億人以上いるんだからそういう奴もいるわな」
「時に我が眷属よ」
「なんでございましょーか」
「帰ってきた時は何か挨拶をしろ。我がびっくりするだろう」
「…………」
そういやそうか。
これからは帰ってきた時、家で待ってる奴がいるんだよな。
なんだか不思議な気分だ。
「……ただいま」
「うむ。よく帰った」
お前は戦国時代の殿様か何かか。
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