第6話:世の中等価交換ですよ!
昼休み。
自分のデスクでサンドイッチをもそもそ食べていると声をかけられた。
朝作ったやつの余りである。
「先輩、珍しいですね。それ手作りですか?」
「まあな」
興味深そうに覗き込んでくる小柄な女性。
こいつは山田 泉。俺の後輩だ。
山田と呼ぶと「山田って名字は可愛くないので泉と呼んでください!」と俺には言っているくせに、社内では普通に山田さんか山田ちゃんと呼ばれている。
ちなみに俺が山田と呼ぶと毎回むくれる。
仮に泉とでも呼んだ日にはセクハラで訴えられるに違いない。
こいつのことをロリ巨乳と陰で呼んでいる他の男性社員こそセクハラで訴えられるべきだと思うのだが。
山田が2年前に入社した時、指導係として半年ほどついていたのだがそれから懐かれている。
明るいブラウンのショートヘア。
いつも笑顔が絶えず、髪の色だけでなく性格も明るい。
根暗な俺とは大違いである。
「ははーん、まさか彼女さんでもできたんですかー?」
「できると思うか?」
「思いませーん」
にへらと笑い言い切る
失礼なやつである。
事実なのが悲しいところだが。
いや、別に悲しくはないか。
働き始めてからは彼女なんて欲しいと思ったことはないからな。
恋愛にかまけている時間があるのなら俺は一分一秒でも長く寝たい。
モテない男の強がりだと思うか?
俺も学生の時はそう思っていた。
だが違うのだ。
人間、疲れていると本当に何もしたくなくなる。
昨日、クーラにチャイムを鳴らされて玄関の扉を開けただけでも奇跡だったのだ。
「でもほんと珍しいですね――よっと」
何故か俺の隣に座る山田。
俺の隣のデスクの奴は昼休みになると毎回会社の近所にあるパチンコを打ちに行く重度のパチンコ依存症で、昼が終わるまでは間違いなく帰ってこないので誰も困りはしないのだが。
「見てください先輩、これ私が作ったんですよ!」
「ほーん」
「うわっ、全然興味なさそう! 泣いちゃおっかなー!」
面倒くさいのでちらりと見ると、ミニハンバーグにひじきの煮物、ミニトマトとレタス、ベビーコーンとなんとも手の混んでいそうなものだった。
「ミニハンバーグは冷凍か?」
「ちっちっちっ。全部手作りに決まってるじゃないですか! まあ、前日の夜に作ったものとかの余りだったりもしますからそんなに時間はかけてないんですけどね」
夜ご飯ねえ。
基本的にはいつも仕事帰りに寄る近所のスーパーで買う半額弁当だ。
ほとんど自炊はしない。
休みの日は外に出るのがだるいので仕方なくする程度である。
そういや今日から
……全額弁当ってなんだよ。
「料理好きなんだな」
「安く済みますしねー」
「ふーん」
俺も自炊覚えるべきかな。
いや、あいつに覚えさせればいいのか。
居候だし。
「さてはあまり興味ありませんね?」
「ちっとも興味がないの間違いだ」
「聞いておいてひどくないですか!?」
ひどくない、と言ってサンドイッチをもそるのを再開する。
「ねえ先輩、今日はパンもちょっと食べたい気分なのでハンバーグと交換しませんか?」
「ほしけりゃやるよ。ハンバーグはいらないけどな」
あとひとつ残っていたサンドイッチをぐいっと山田の方に押しやる。
「ええっ!? ハンバーグですよ! ハンバーグ! 世の中の男の子はみんな好きなハンバーグです!」
どんな偏見だよ。
まあ確かにハンバーグ嫌いってやつはなかなか見ないが。
でも中学生だか小学生だかの同級生にいたな、一人。
給食でハンバーグが出るとそいつ分が浮くのでじゃんけん大会が開催されていた。
「別に嫌いとは言ってないだろ。ハンバーグの気分じゃないだけだ」
「えっ……じゃあひじきの煮物はどうですか?」
「いらない」
「先輩、世の中等価交換ですよ! はっ! まさか食べ物でなく、対価は私の体とか!」
「いらねえ」
「真顔で言われると傷つくんですけど!」
勝手に傷ついていてほしい。
俺の知らないところで。
「いやー、サンドイッチってたまに食べると美味しいですよねー」
結局ラストワンお手製サンドイッチは山田が食すことになったのだった。
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