第4話:うるさいやい!

「俺の血がないと死ぬってことはよくわかった。流石に俺だって鬼じゃない。お前を追い出して餓死させようとは思わん」

「ふむ、吸血鬼の眷属なのに鬼じゃないとは高度な洒落だな?」


 それに気付いた我すごい、みたいなドヤ顔をするクーラ。

 やっぱ追い出そうかなこいつ。

 定番の鬼ジョークみたいに言われても困る。


 ていうか異世界から来たらしいのになんで鬼と吸血鬼の漢字が一緒とかわかるんだろうか。

 ……そういう細かいことを考えるのは明日、仕事から帰ってきてからにしよう。


「とりあえず、俺は明日仕事があるので寝る。いいか、はしゃいだり勝手に外に出たりするなよ。面倒事はごめんだ」

「寝るのか?」

「寝るだろ。寝なきゃ明日どうやって仕事するんだよ」


 若い頃は一徹くらい楽勝だったんだが、今そんなことをしようと思うと下手すりゃ出社中に事故る。

 

「今の貴様は一日くらい寝なくても平気だぞ。並の人間よりちょびっとだけ頑丈になっているからな」

「は?」

「具体的に言うと、一日寝なくても普通に動けるし指先を切っても一日あれば治る。人間基準の重傷ともなると時間はかかるがな」

「……血を吸っても吸血鬼にはならないんじゃないのか?」

「ならん。だが、ほんの少しだけ人間から逸脱する。だから積極的に血を吸って欲しいと願う人間もおるくらいなのだぞ」

「……その代わり自分とその子孫の血を一生吸わせることになるんだろ?」

「そういう契約を結んでいる同族もいるにはいる」


 悪魔と契約するみたいなものだろうか。

 いや、そもそも悪魔なんてものもこの世界にはいないのだが。


 正しくは鬼と契約してちょっと頑丈になるってことか?

 病気になりにくくなったりするのならそうする価値もあったりするのだろうか。


「でも仮にそいつが子供を作らなかったらそれで死んじゃうんじゃないのか、吸血鬼」

「その通り! だから吸血鬼が人間の血を吸うのは本当に特殊な例なのだ! そんな我に血を吸われたことを光栄に思うがいい!」


 基本的に血を吸わない吸血鬼ってなんだよ。

 とツッコミたかったが、面倒なのでやめた。

 

 特殊な例ねえ。

 クーラが俺の血を吸ったのは結局その特殊な例に入るということがよくわかるのだが、他の場合で吸血鬼が人の血を吸う理由はどんなものなのだろうか。


 その話だけを聞いていると、吸血鬼サイドに人間の血を吸うメリットは無いような気がする。

 だって実質その人間に命を縛られているようなものじゃないか。

 

「ちなみに言っておくと、俺は子供なんて作る予定はないからな。この歳で恋人もいなけりゃ特に募集もしてないし自分から探しにいくつもりもない」


 自分のことで手一杯だ。

 なんて思ってたら吸血鬼を名乗るガキんちょが転がり込んでくるし。


「この歳でって、貴様何歳なのだ?」

「30だが」

「……ふむ30か。人間で30で未婚か……まあ、あれだ。貴様にもきっといいところはあるだろうから、そう気を落とさずに頑張れ」


 生暖かい目で見てくるクーラ。

 う、うざすぎる。


「言っておくが、この国じゃ30は結婚してなくても別に不思議ではないからな」

「うむうむ、そういうことにしておいてやろう」


 こいつ信じてないな。

 

「そういうお前は結婚とかしてないのかよ」


 1014年も生きていればそういう話もあるだろうと思ったのだが、クーラは目線を逸らした。


「……恋人とかいたことは?」

「ど、どうでもよいだろうそんなことは!」

 

 こいつ、見た目は美少女だが、この性格だからなあ……

 敵が多いとか口走っていたし、つまりそういうことなのだろう。


「まあ元気だせよ。お前の良いところを見つけてくれる人だっていつか現れるって」

「う、うるさいやい!」

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