第2話:え、良いのか?
「ほほう、それなりの暮らしをしておるようだな、この世界の人間は」
「……そりゃどーも」
俺はこの真なる吸血鬼だの夜の王だの名乗るやべえ少女――クーラ=アルカオス=ベルネットを結局家の中に招き入れてしまった。
そうしないと俺の家の玄関が破壊し尽くされると思ったからだ。
地団駄でコンクリを踏み割るわ牙も直接生えてるみたいだわで正直本物の吸血鬼なんじゃないかと思い始めている俺がいる。
「さて、めでたく我の下僕もできたことだし、早速精を――血を吸わせてもらおうか!」
「嫌だけど」
「え、嫌なのか?」
きょとんとするクーラ=アルカオス……ああもう、長いからクーラでいいだろ。
当たり前だろ。
「百歩譲ってお前が吸血鬼だとして、俺が血をやらにゃいかん理由がどこにある」
「お前は我の下僕だぞ?」
なんで心底不思議そうなんだ。
俺の方が不思議だよ。
なんだ下僕って。
「いつ誰が下僕になるって言ったよ」
「夜の王たる我を夜に家へ招き入れたのだぞ。つまり眷属へくだることを承認したことに他ならぬのだ」
本気で不可解そうにクーラは首を傾げた。
これはアレだ。
本気で会話が噛み合っていないやつだ。
不思議ちゃんを演じている、とかではなく、本気で俺との価値観が全く異なるものなのだろう。
そんな感じがする。
偽物なはずだ。
吸血鬼なんて非科学的なものは存在しないのだから。
しかし。
もし万が一本物だとしたら――
「クーラ」
「…………その名で呼ぶことを許可していないのだが?」
ジト目でこちらを睨むクーラを無視して、話を続ける。
「お前吸血鬼なんだろ。証明してみろ」
俺は袖をまくって右腕を差し出す。
吸血鬼のソレは首からのイメージがあるが、同じく太い血管が通っている手首でも問題はなかろうという判断だ。
そもそも首から吸わせるのはちょっと絵面が犯罪的すぎる。
「え、良いのか?」
先程まで渋っていた俺が一転して素直になったのが不思議なのだろう。
「いいから吸ってみろ。それでお前が本物かどうか見極めてやる」
「じゃあ遠慮はしないからな」
クーラは俺の腕を両手で掴んで、まるで漫画に出てくる、肉に齧りつくキャラクターのように俺の手首に牙を突き立てた。
痛――くは、ない。
明らかに皮膚を突き破っているのに。
そして、そのままこちらの様子を窺うように上目遣いでちゅーちゅーと血を吸い始める。
本物……だ。
間違いなく。
実際にこうして血を吸われて確信した。
「んー、人間から血を吸うのは初めてだからな。加減がわからん。とりあえずこれくらいでやめておいてやるか」
しばらくちゅーちゅーした後にカパ、と俺の手首から牙が抜けた。
そして空いた穴を小さな舌でぺろりと舐められると、一瞬にしてその傷も完治していた。
「……マジかよ」
これはもはや疑いようもないだろう。
この娘の髪や牙、恐らくは瞳の色に至るまでハロウィンの仮装ではなく、全てが本物。
吸血鬼を名乗る少女、クーラに振り回される日々が今日この瞬間から始まるのだが――
この時の俺がそれを知る由もなかった。
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