くたびれたおっさん、吸血鬼の少女を拾ってしまう
子供の子
第1話:我こそは吸血鬼なのだ!
ピンポーン、とチャイムが鳴った。
ちらりと時計を見る。
夜の11時である。
この時間ともなると無視しよっかなという気持ちよりも誰だよこんな時間にチャイム鳴らすボケナスはという気持ちが上回る。
手っ取り早く言うと、文句の一つや二つや三つや四つは言ってやりたくなるということだ。
ズカズカと玄関の方へ向かい、勢いよく扉を開け――
ゴツン、と鈍い音がした。
同時に「あいたっ!」と可愛らしい声も。
……可愛らしい声?
こんな時間に?
ていうか、門があるんだから扉の方まで入ってくるなよ。
怖いよ。
恐る恐る扉から外を覗き見てみると、銀髪で黒い服に黒いマントを羽織った――少女が額を抑えて蹲っていた。
額を抑えて蹲っているのに少女だと判断できた理由はさきほどの声と体格、それにスカートを穿いているという三点だ。
扉が当たったんだろうな、と思うのと同時にあれこれ考えが頭の中を巡る。
銀髪?
しかも黒い衣装に黒いマント。
トリックオアトリートな季節は確かに近いが……
そもそも当日でもない上に知らない家の、更にこんな時間にチャイムを鳴らすような奴がまともな訳がない。
関わらないのが吉だ。
「おいクソガキ。警察へ連絡されるか、自分で帰るか今すぐ選べ」
「なっ……ガキ……だとぉ……!?」
額を抑えていた少女がこちらを見上げた。
結構勢いよくぶつかったが、その綺麗なデコには傷一つついていないどころかたんこぶすらない。
最近の子どもは丈夫だな。
しかも作り物かってくらい顔の作りが整っている。
人形が人間に近すぎると不気味の谷現象だかなんだかで逆に気味悪くなる、なんて話を聞いたことがあるが、それでもそうとしか表現できなかった。
そもそも不自然さなんてないけどな。
作り物ってのはただの比喩で、どこからどう見ても生きた人間だからである。
しかしこんな子、近所に住んでたか?
少なくとも見覚えはないが……
ていうかこの子の口元、牙みたいなのまであるぞ。
瞳はびっくりする程綺麗な真紅だ。
カラコンでも入れてるのか?
全体的にクオリティの高い仮装である。
吸血鬼か何かか。
「そう、我こそは吸血鬼なのだ! くはははは、はーはははは!!」
少女は腰に手を当てて高笑いし始めた。
……今俺、声に出して言ったっけ?
にしてもうるさいな、この子の笑い声。
「近所迷惑だ。黙れ」
「……お前、我が吸血鬼だと知っていて何故恐れ慄かないのだ?」
「何言ってんだ。この辺じゃ見かけねー顔だな。どこの子どもだ」
「子どもじゃないもん!」
ドンッ、と少女は地団駄を踏んだ。
文字通り、ドンッ、だった。
何故かって?
玄関先が陥没したからだよ。
漫画みたいに。
嘘だろおい。
こんなの有り得るのか?
ドン引きした俺の反応をどう見たか、少女は気を取り直したようでもう一度腰に手を当ててふんぞり返った。
見下す為にそうしているようだが、身長が悲しいほど足りない。
「我はクーラ=アルカオス=ベルネット。真なる吸血鬼の血族にして夜の王よ!」
少女は再び高笑いを始める。
牙はきっちり彼女の口の中から生えていた。
……悪い夢でも見てんのかな、俺。
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