第4話 シグリズ:シグリズ戦
一行は
グラーフは〈渾身の腕輪〉を左手に装着して疲労を癒やしながらあとをついてくる。
先ほどのグレル戦では想定外の事態が起こってしまった。
「この奥がシグリズのいる場所だと思います」
エイシャが告げた。
彼女は聖職者であるため
「もう
「すみません」
カセリアの嫌味へ控えめに苦笑いしながら頭を掻いた。
先ほどは単独でグレルの群れに突入してしまったがため、大乱戦の
もし知性の高い魔物が相手だったら、パーティーは全滅させられていた可能性もある。
のん気に笑っている余裕などないのだが、俺はこんなときにも笑みを絶やすことはなかった。
「シグリズが一体ならエナジー・ボルトの一撃で片がつくんだけどな」
「スカールとグレルの数から見ても、複数いると考えたほうがよいでしょう」
「だろうな」
カセリアとナジャフが話を進めていく。
「問題はシグリズが魔法を使えるというところですな」
「俺の剣なら魔法を吸収できる。それをそのまま敵に叩き返すことだって」
愛剣を掲げて見せる。
「そこでこのように――」
ナジャフの作戦説明が始まった。俺たちはその説明に聞き入る。
その戦法はさすが知識の宝庫と呼ばれる賢者だけのことはあった。
敵の数次第で三通りの戦い方が示される。
シグリズの魔法へどう対処するかも詳らかに説明を加えていった。
シグリズの用いる魔法はほとんどが電撃系である。
そこで腰に長いワイヤーを結んで地面に垂らし、電撃を地面に逃がそうという案が出た。雷を大地に逃がす手段を応用するのだ。
「よし、それでいこう」
ナジャフの提案を実行に移すことにした。
疲れの癒えたグラーフは〈渾身の腕輪〉を右手にはめ直し、エイシャはそんなグラーフの大剣に再び『聖なる武器』の奇跡をかけていく。
そしてそれぞれの武器に聖水を振りかけて清めた。
これで前衛の斬撃は不死のシグリズにじゅうぶん通じるだろう。
さらに聖水の小瓶を全員に配って、万が一の事態に備えることにした。
ワイヤーを六人ぶん切って腰に巻いて床に垂らしておく。
しっかりと準備を整えた一行は先を急ぐ。
「洞窟がこの構造なら奥に石室が設けられているはずなのですが」
ナジャフは知識をひけらかさずにはおれない性分のようだ。
今度もナジャフが
仲間五人の顔を
ゆっくりとぼんやりシグリズが大小五体現れた。
ただシグリズといえば通常なら人間の体を保っているものらしいのだが、黄色く分厚いもやに覆われた姿をしている。
作戦は当初の想定よりも急がなくてはならなくなった。
素早くエイシャは奇跡を祈りはじめ、カセリアは魔法の
シグリズのうち大きな二体がゆっくりと俺たちへ向かってくる。
「ターン・アンデッド!」
〈神の聖印〉を用いたエイシャの奇跡により、シグリズ五体はその場で動かなくなった。そのうち小さな一体が男児の姿を現したのち消滅した。
「エナジー・ボルト!」
カセリアの強大な魔法が炸裂した。
シグリズが真っ白に閃いて轟音と断末魔が鳴り響く。強い空気の震動が石室入り口まで伝わってくる。
光が弱まって確認すると大きなシグリズが一体、女性の姿を現したのち消えていった。
エナジー系の魔術は高い魔術スキルと魔力が要求させる。
万能なるマナを純粋なエネルギーに転換して解き放つ。
地上で破壊できないものはないとされるほど高濃度のエネルギーだ。
〈マナの首飾り〉をしているとはいえ事もなげに撃ち込んだ彼の力量は、達人の域をすら超えているといえるだろう。
俺を先頭にレフォアとグラーフの三人は、残った三体のうちこちらに向かってきていた大きなシグリズに狙いを定める。
するとシグリズから電撃が放たれた。
レフォアとグラーフは腰紐としたワイヤーによって電撃を地面に逃し、俺は魔剣を
刃に稲光が宿った。
王国軍師が語っていたようにこの剣には魔法を吸い取る力があるのは確かなようだ。
間合いを一気に詰めるとシグリズに飛びかかって大上段から渾身の一撃を放つとシグリズは電撃に包まれる。
一瞬男性の姿を見せたがすぐにもやに包まれていった。
続いてレフォアが〈
小さな二体のシグリズが残された。
ナジャフが「まず一体を確実に仕留めるのです。二体を同時に相手してはいけません」と注意を喚起する。
レフォアとグラーフの位置取りを一見して把握し、右の個体に狙いを定めた。
ふたりもそれに従って動き、三人は聖水を帯びた剣でシグリズを打ち倒した。
こちらもやはり倒されたのち消え行く間際に女児の姿を現していく。
エイシャの〈ターン・アンデッド〉の魔法は一体の魔物に対して一度しか効果を発揮できない。
一度耐えられると再び〈ターン・アンデッド〉をかけても成功しないのだ。
そこでエイシャも前線へと駆けてきた。
カセリアは追加の〈エナジー・ボルト〉の
俺が挑みかかると小さなシグリズは石室内を逃げまわりだす。
レフォアが行く手を
ようやく石室の隅に小さなシグリズを追い詰め、逃げられないように周りを取り囲んでカセリアの魔法を待った。
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