第63話:王都の危機

「リッチーロード、お前だとはな」


(ゴヨークは魔族四皇と、手を組んでしまったというわけか)


『フフフ、驚いたろウ』


仲間たちはみんな、戦闘態勢に入っている。

部屋の中は、ピリピリとした緊張感であふれていた。


「ゴヨーク、貴様! 教皇ともあろう者が、魔族四皇と繋がるなんてどういうつもりだ!? 恥ずかしくないのか!? 私たちはこいつらを倒すために、ずっと戦ってきたのだぞ!」


ノエルはリッチーロードを睨みつつも、ゴヨークを怒鳴りつけた。

騎士隊として命をかけていたので、その怒りはさぞかし強いことだろう。


「ひいいい! どうか、お助けを!」


ノエルに怒鳴られ、ゴヨークは震えあがっている。

もはや、見るも無惨な姿だ。

あの傲慢さなど、影も形もない。

さすがのダグードも、何も言えなかった。

気が抜けたように、たたずんでいる。


「ど、どうしよう、アスカ! 相手は魔族四皇だよ!?」


「応援を呼びますか!?」


(さて、リッチーロードは不老不死と言われているが……)


こいつは魔族四皇の中でも、ひときわ魔法に優れている。

大賢者にも匹敵するほどだ。

鏡を介していても、洗練された魔力を感じた。


「お前はどうして、冒険者排斥運動なんて始めたんだ?」


『フフフ、ワタシが答える必要は、どこにもなイ。おとなしく殺されるがいイ』


「なら、力づくで教えてもらうとするか」


『そうはいかないゾ。王都全域に、転送能力を持つ鏡を設置しタ。すでにモンスターどもが、大事な人間たちを襲っているゾ』


鏡からリッチーロードが消え、代わりに街の風景が映し出された。

貴族や冒険者たちが、たくさんのモンスターに襲われている。

気づかれぬように、王都侵略の準備をしていたようだ。


「た、大変だ! モンスターがいっぱいだよ!」


「すぐ、助けに行きましょう!」


「アスカ、どうする!?」


ゴヨークは鏡を見ながら、ガタガタしている。


「何と言うことだ。あれはSランクモンスター、ゾンビドラゴンじゃないか! 何て大きいんだ! デュラハンやナイトメア、グールまでいる! もうルトロイヤはおしまいだ! 他には……うっ」


「ゴヨーク様!? お気を確かに!」


ゴヨークはひとしきりモンスターの名前を口にした後、気絶してしまった。

見たところ、アンデット系の高ランクモンスターが多いようだ。


(ふむ……)


だが、その周囲に高度な魔法を使うヤツらがいた。

ブラックピクシーやダークニンフなどの、SランクやAランクのモンスターが集まっている。

黒っぽいオーラを出していた。

“聖なる力”を防いでいるのだ。

騎士隊も応戦しているが、敵の数が多すぎる。

このままでは、侵略されるのも時間の問題だ。


「あっ、教会が!」


ルトロイヤ教会にも、モンスターが攻め入っていた。

おそらく、イセレや聖女たちを先に攻撃するつもりだろう。


(ん? なんだ、あれは)


そのとき、不思議なモンスターがいることに気がついた。

トロール、レイス、フェニックスだ。

モンスターの中でも、こいつらが一番強そうだった。

応戦に出た騎士隊や冒険者を、いとも簡単になぎ払っている。


「なんでしょう、あのモンスターたちは」


見た目は普通のモンスターだが、魔力におかしなところがある。

人間の魔力が混じっている気がするのだ。


(もしかして、あいつらが……いや、まさかな)


だが、ゴーマンと名乗った魔族がいる。

そして、魔族四皇であるリッチーロードの存在。

最悪の事態まで考えて置いた方が良さそうだ。


『まぁ、せいぜい頑張ることだナ』


「あっ、ちょっと待ってよ!」


「逃げないでください!」


「逃げるな!」


瞬く間に、リッチーロードは鏡から消えた。

部屋は静寂に包まれる。


「どうしよう、アスカ」


「このままじゃ、街が大変なことになります!」


「アスカ、リッチーロードを追うか!?」


深追いするより、まずは王都にいる人たちを助けるのが先決だろう。


「王都を助けるのが先だ。戻るぞ!」


俺たちは外に向かって走り出した。

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