第59話:食事会
「今日はよく来てくれたな。アスカ・サザーランド君と、そのお仲間たちよ。また会えて嬉しく思うぞ」
俺たちは修道会本部にある、大食堂に来ていた。やたらと豪華な部屋だ。ここで、例の食事会が開かれていた。
「ヨルムンガンドを退治したときは驚いた。あのダグードにも勝ったそうじゃないか。まさか、これほどまでに強い冒険者がいたとはな。いやぁ、過去の私が恥ずかしい」
さっきから、ゴヨークは笑顔だった。しかし、目は笑っていない。ナディアたちも、気がついたようだった。小声で話し合う。
「ねえ、うさんくさいよ」
「調子が良すぎます」
「もっと上手く、取り繕ったらどうだ」
部屋には俺たちの他に、ダグードもいた。だが、他の四聖はいない。ググリヤは別として、味方になりつつあったイセレとドソルは、あえて呼んでいないのだろう。騎士隊も同席していない。ゴヨークが何かを考えていることは、明白だった。
「さあさあ、席におつきください」
「とりあえず、座ろう」
俺たちは用心しながら、用意された席に着く。食器類も、これまた派手な物ばかりだった。
「今日は君たちのために、最高級の料理を準備しているぞ」
「そうか」
「そして、我が修道会のノエル・ダレンバート君も、一緒に行動しているそうじゃないか。さすがは、あのダレンバート家だ。君には、人を見る目があるな」
ゴヨークは、ノエルを見ながら言った。
「どうだかな……」
「さあ、食事を始めようじゃないか」
ゴヨークが言ったところで、メイドたちが次々に料理を運んできた。温かいスープや温野菜、どれも良い匂いがする。
「まさか、毒とか入っていないよね?」
「もしそうだとしたら、最低の人です」
「ゴヨークだから、安心はできんぞ」
「俺が調べてみよう」
俺は心の中で、静かに魔法を念じる。毒避けのSランク魔法だ。
(《ネオ・アボイド・ポイズン》)
もし毒が入っていれば、浮き出てくるはずだ。魔法を使っているのがバレないように、注意して発動する。
(ふむ……)
しかし、別に変化はない。俺たちに出された料理や皿に、怪しいところはなさそうだった。
「とりあえずは、大丈夫そうだぞ」
「アスカが言うなら安心だね」
「良かったです」
「それなら食べてみるか」
とはいえ、まだ油断はできない。
(念のため、出された料理全てに、発動させておくか)
これで何かあれば、すぐわかるはずだ。そのまま、食事は滞りなく進んでいく。
「アスカ君たちのおかげで、我がルトロイヤの平和が保たれたようなものだ。そうだよな? ダグード?」
「え、ええ……そうですね……」
「アスカ君たちには、ぜひとも修道会に入ってほしいくらいだ。もしご希望があれば、私が口添えしても良いが、いかがですかな?」
「いや、遠慮しておこう」
「「私たちもお断りします」」
俺たちは、即座に断った。
「これはこれは、手厳しいですな。もうちょっと、考えてくださってもいいとは思うが」
ゴヨークはしきりに、俺たちのことを褒めちぎっている。
(そろそろ、こちらから仕掛けるか)
「ゴヨーク、お前に聞きたいことがある」
「はい、何でしょうか?」
「どうして、冒険者排斥運動なんて始めたんだ?」
俺はストレートに聞いた。まわりくどい言い方など、する必要はない。しかし、仲間たちに、小声で小突かれた。
「ちょっと、アスカ」
「いきなりすぎませんか」
「もう少し様子を見てからが、良かったんじゃないか?」
「いえ、あの頃の私はどうかしていたのですよ。まぁ、その後すぐに正気に戻って、廃止させましたけどね」
しかし、ゴヨークは淡々と答えてきた。張り付いたような笑顔も変わっていない。俺は立て続けに聞いていく。
「ゴーマンという名前に聞き覚えはないか?」
「ありませんねぇ」
「ヨルムンガンドの襲来については、どう思う?」
「さあ……」
だが、ゴヨークはハッキリ答えようとしない。
「絶対、何か知っているのに」
「わざと知らないフリをしているんですよ」
「相変わらず、卑怯なヤツだ」
(ふむ、あくまで答えないつもりのようだ。これはゴヨークの近くに潜入して、確かめる必要があるかもしれないな。何か証拠を掴めればいいのだが)
俺は良い方法がないか、考え始める。
「さて、食後のデザートはいかがでしょうかな?」
ゴヨークの一言で、焼き菓子が持ってこられた。チョコレートケーキのようだ。すでに、人数分切られている。
(む……これは……)
「さあ、どうぞ、アスカ君たち。うちのシェフが腕を振るった、自慢の菓子だ。ぜひ、お食べいただきたい」
ナディアたちは食べようとするが、すんでのところで俺はとめた。
「お前ら、待て。食べるんじゃない」
「え?」
「まさか……」
「アスカ?」
俺は焼き菓子の上に、手をあてた。
「アスカ様、いったい何を?」
ゴヨークがにわかに、慌て始めた。
(《ネオ・アボイド・ポイズン》)。
配られた焼き菓子から、黒い粉が浮いてくる。
「な、何か出てきたよ!?」
「なんですか、この粉は!?」
「!?」
(思った通りの結果になったな)
ご丁寧に、俺たち全員のケーキに入っていた。集めると、ちょうど小ビン一杯分の量だ。俺は手の平に浮かせて、良く見えるようにかざした。
「これはなんだ? ゴヨーク」
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