第58話:怪しい誘い
「俺たちと食事したいだって、あのゴヨークが?」
俺は、にわかには信じられなかった。仲間たちも、同じ気持ちのようだ。
「なんでいきなり、そんなこと言い出すの?」
「怪しいです」
「それは、本当の話か?」
「誠でございます。ゴヨーク様から、直筆のお手紙も預かっております。アスカ様方のご活躍を、ぜひとも称えたいとのことです」
使いの者が、一通の手紙を渡してきた。貼り紙と違って、しっかりした紙だ。俺たちは、中身を確認していく。最後の方に、ゴヨークのサインと、教皇の印が押されてあった。
「ゴヨーク、って書いてあるね」
「サインの筆跡は、貼り紙と似ています」
「どうだ、ノエル? この印は見たことあるか?」
俺はノエルに手紙を渡す。
「間違いない、この印はゴヨークの物だ。正式な文書のようだな」
「お確かめ頂いたように、これはゴヨーク様のお手紙でございます」
「ちょっと、相談させてくれ」
使いの者から離れ、俺たちは話し合いを始める。
「どうやら、本当にゴヨーク本人が誘ってきたみたいだ」
「絶対行かない方が良いよ。きっと、何かの罠だって」
「私もただの食事会ではないと思います」
「こんな急に、態度を変えるのはおかしい。私たちがルトロイヤに来たときのことを、思い出してみろ」
確かに、ゴヨークは俺たちを毛嫌いしていた。あんなに冒険者を嫌っていたヤツが、ここまで手の平を返すのはおかしい。だが、俺は良いチャンスだと考えていた。
「俺は誘いに乗ってみようと思う」
「え! なんで!?」
「敵地に飛び込むようなものですよ!?」
「何か考えがあるのか?」
ナディアとティルーは驚いていたが、ノエルは落ち着いていた。さすがは、王国騎士修道会だ。
「ゴヨークと直接、話ができる機会だ。この際、正面から堂々と聞いてやろう。無論、ただの食事会だとは思わないが、別に問題はない。どんな罠があろうと、冷静に対処すればいいだけだ」
あのゴヨークのことだから、何か仕掛けてきそうだ。しかし、考えたところで仕方がない。チャンスがあれば、活かすべきだ。
(ヨルムンガンドやゴーマン、そして“邪悪な存在”……)
俺たちの元へ、確実に何かが近づいている。ルトロイヤの街や王国騎士修道会が、危険な目に遭う可能性だってあった。
「アスカの言うように、良い機会かもね」
「こちらから会おうとするのは、難しいかもしれません」
「一理あるな」
「もちろん、お前らは来なくていい。俺だけで十分だ」
最初から俺は、一人で行くつもりだった。
「いや、私も行くよ」
「アスカさんいるところ、ティルーありです」
「私もゴヨークに、色々言いたかったところだ」
しかし、仲間たちは違う気持ちのようだ。みな、力強い表情をしている。怖気づいている様子など、少しもない。
(そうだった、俺の仲間は頼りになるヤツばかりだったな)
「そうか、なら決まりだ」
俺たちは、使いの者へ歩いていく。
「お考えは、まとまりましたでしょうか?」
「ああ、ゴヨークに伝えてくれ。アスカ・サザーランドたちは、食事会に行くとな」
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